消費者契約法による「不動産売買契約の取消し」「瑕疵担保責任の期間や免責」について宅建マイスターが解説します!
「法人や個人事業主の大家さん」が「個人の消費者」へ不動産を売却する契約をする場合、消費者契約法が適用されて瑕疵担保責任を免責にできない…ということを知っていましたか?この記事では、消費者契約法による不動産売買契約の取り消しに関して、宅建マイスターが詳しく解説してみます!
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
消費者契約法とは…?
「消費者契約法」とは…
「消費者」と「事業者」との契約では、情報の量・質・交渉力などにおいて大きな差があります。このような状況を踏まえて、消費者の利益を保護するために作られた法律です。
消費者契約法の2つの効果
効果1…
事業者の一定の行為によって、消費者が誤認したり、困惑した場合、その不動産売買契約を「取り消す」ことができます。
効果2…
消費者の利益を不当に害する不動産売買契約条項は「無効」になります。
消費者が不利な契約を結んで困らないように守ってくれていますね!この法律をしっかり理解するために「消費者」「事業者」の定義などを詳しく見ていきましょう!
【1】消費者
「消費者」というのは、事業としてでもなく、事業のためにでもなく契約の当事者となる個人のことです。
わかりづらい表現ですね…。
不動産取引で考えると、普通にマイホームを購入する人たちのことです。不動産屋さんや事業を行っている法人と比べると、取引に慣れていませんから保護されます。
【2】事業者
「事業者」というのは、法人だけではありません(法人は全て事業者)。個人事業主でも「事業として、または、事業のために」契約の当事者になるなら「事業者」として扱われます。
「事業として」というのは、不動産であれば、売買や賃貸を何度も繰り返して行うことです。つまり、個人事業主の大家さんが不動産を売買する場合は「事業者」になる可能性が高く、消費者契約法を意識しなければいけないわけです。
2020年2月5日追記…
賃貸中の店舗を売却するお客さまが「事業者」にあたるかどうか?について、ゆめ部長が所属する「全日」に質問してみました。また、知り合いの「悪徳不動産バスターMさん」が「全宅」に質問してくれましたので、追記しておきます。(売主さまの詳細は伏せておきます。)
質問の仕方が悪かったのかもしれませんけど、
全日では「事業者」にあたるとの回答がある一方、
全宅では「消費者」になるとの回答がありました。
「事業者」にあたるかどうかは、売主さまの状況を不動産屋さんにしっかり伝え、その契約ごとに調査してもらうべきだと感じました。
消費者契約法の文言を見ると…
第二条(定義)
この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
事業のために契約の当事者となる個人は「事業者」と定義していますよね。不動産賃貸業を営む個人事業主の大家さんが、その不動産を売却するなら、事業者だと言い切ってくれればイイのに…と思うところです。
皆さまも売買契約をするときは注意してくださいね。なお、この記事内容はもう少し深堀して勉強する予定です。もう少し詳しく加筆するつもりですので、しばらくお待ちください。
消費者契約法が適用される不動産取引
消費者契約法は「事業者」と「消費者」が契約する時に、消費者を保護するのが目的でしたね。
そうすると、事業者同士・消費者同士ではこの法律の適用はないことになります。具体例を見ながらチェックしてみましょう。適用ありは【○】なしは【×】で書きますね。
■ 宅建業者同士の売買契約 ・・・ ×
■ 法人同士の売買契約 ・・・ ×
■ 宅建業者と法人の売買契約 ・・・ ×
■ 建売住宅を消費者が購入 ・・・ ○
■ 消費者が建売会社へ売却 ・・・ ○
このWebページは売買を中心に解説していますので、賃貸に関することは記載していません。この点、ご了承ください。
不動産屋さんに売却や購入のサポートを依頼する「仲介」はどうでしょうか…?
この場合も、消費者になる皆さまは、消費者契約法により保護されます。仲介会社が違反行為をして消費者契約法が適用される場合、皆さまは、売主さまに対して取り消しを求めることができます。
ここからは「消費者契約法の2つの効果」について解説していきます。
消費者契約法による不動産売買契約の「取消し」
「消費者契約法」では、事業者が事実と相違することを説明した結果、消費者が誤認・困惑して自由な意思決定を妨害されたとき、契約の申込や、承諾の意思表示を取り消すことができます。(消費者契約法第4条)
この文言だと、契約完了前の申込と承諾を取り消せるだけのように読めますけど、「締結した契約」も取り消すことができますからね。
「宅地建物取引業法」では、宅建業者が不当な行為をした場合、監督処分や罰則などを課しますが、取引が取り消されたり無効になったりはしません。
この点は大きな違いだと言えます。
消費者契約法の適用により不動産売買契約が「取消し」された場合、この効果は契約時に遡り、当初から契約が無効だったものとみなされます。
なお、取消権には下記の行使期間が定められているので注意してください。
■ 「追認できる時から」1年以内
※ 平成29年6月3日施行の消費者契約法改正
※「追認できる時から」というのは次の通りです。
誤認していた時:誤認したことに気付いた時
困惑していた時:困惑状態から脱した時
■ 売買契約締結の時から5年で消滅
次に、消費者が売買契約を取り消すことができるケースを見ていきましょう!
【1】不実告知
【2】断定的判断の提供
【3】不利益事実の不告知
【4】不退去・監禁
全部で4つのパターンがあります。
【1】不実告知
不動産屋さんが重要事項について事実と異なる説明を行った結果、消費者がその内容が事実であると誤認していた場合、契約の申込や、承諾の意思表示を取り消すことができます。
例えば、売買対象の不動産に、差押・抵当権・賃借権が設定されているのに「負担のない不動産ですよ。」と説明したような場合です。他には、築年数を勘違いして伝えていた場合なども該当します。
つまり、わざと間違えたわけでなくても、不動産屋さんは責任を負うわけです。
まぁ、当然のことですね!
【2】断定的判断の提供
不動産屋さんが、将来どうなるか不確実な事項について断定的な判断を伝えた結果、消費者がその内容が確実であると誤認した場合、契約の申込や、承諾の意思表示を取り消すことができます。
例えば、新駅ができることが確定していないにもかかわらず、「数年後に新駅ができて街が再開発されるんですよ!」とか、「この物件を買っておけば数年後に値上がりして大儲けできますよ!」と伝えた場合が該当します。
当然のことながら、本当に悪意がなくて勘違いしていたとしても、不動産屋さんは責任を負わなければいけません。
【3】不利益事実の不告知
不動産屋さんが、お客さまに不利益になることをわざと伝えなかった結果、消費者がその事実が存在しないと誤認した場合、契約の申込や、承諾の意思表示を取り消すことができます。
例えば、隣接地に大規模マンションが建築される予定があるのに、「陽当りも風通しも良好ですよ。」と伝えた場合が該当します。
【1】【2】の2つ異なり、調査した結果、不利益事実を知ることができなかった場合には、不動産屋さんは責任は負いません。要件は、「わざと」であり、お客さまが誤認してしまったことの2つです。
【4】不退去・監禁
不動産屋さんが、お客さまの自宅や勤務先から帰らなかったり(不退去)、店舗から帰らせてくれなかった(監禁)ことで困惑してしまった場合、契約の申込や、承諾の意思表示を取り消すことができます。
こんなことが未だにあるの…?と思われるかもしれませんが、このような被害は意外と多く存在しています。ゆめ部長のお客さまから聞いた話では、夜中に訪問してきて、申込書を書くように迫ってきたり、店舗から5時間も帰らせてくれなかった…ということもありました。
不当な不動産売買契約条項の無効
民法の原則では、債務不履行や不法行為による損害賠償責任の定めに関する事項を契約当事者が自由に取り決めることができます。
しかし、消費者契約法では、消費者の利益を守るために下記【1】~【3】の不当な契約条項を無効にしています。この定めは当事者間の合意があったとしても排除することはできません!これを「強行規定」といいます。
【1】事業者の損害賠償責任の免除に関する条項
全部で5つありますので確認してみましょう。
債務不履行責任に関する事業者の責任を制限する条項
(1) 債務不履行に基づく損害賠償責任の全部を免除する条項は無効
(2) 故意・重過失による債務不履行に基づく損害賠償責任の一部を免除する条項は無効
不法行為責任に関する事業者の責任を制限する条項
(3) 不法行為に基づく損害賠償責任の全部を免除する条項は無効
(4) 故意・重過失による不法行為に基づく損害賠償責任の一部を免除する条項は無効
瑕疵担保責任に関する事業者の責任を制限する条項
(5) 売買契約対象の不動産に「隠れた瑕疵(かし=キズ・欠陥)」がある場合、瑕疵により生じた損害の賠償責任の全部を免除する条項は無効
ただし、次の場合には消費者を救済できるため無効にはなりません。
1. 瑕疵のない代替物を提供する場合
2. 瑕疵を修補する責任を負う場合
消費者契約法の改正(平成29年6月3日施行) があり、消費者の解除権を放棄させる特約が無効になりました。「目的物に隠れた瑕疵があった場合、売主は修補義務のみを負う。」とする特約も無効になります。
少し前の建売住宅の売買契約書では、「瑕疵があっても解約できない。」と書いてあるものがありました。ずいぶん上から目線の契約だなぁ…と思っていたので、是正されて良かったです!
【2】消費者が支払う損害賠償の予定等に関する条項
2つ見ていきましょう!
(1)損害賠償額を予定する条項
条文が曖昧な表記で具体的な定めをしていません。一応、条文を見てみると…
当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの
当該超える部分は無効としています。
(公益社団法人)全日本不動産協会の契約書類では、売主さまが宅建業者の場合と同様に、損害賠償額は売買金額の20%を上限に定めていますので、20%を超える定めをした場合、超える部分が無効となります。
ただ、ほとんどの取引では上限を10%にすることが多いです。
(2)遅延損害金の条項
消費者が支払うお金に関する遅延損害金は、年14.6%を超えることができません。14.6%を超えた定めをした場合は、超える部分が無効とされます。
【3】消費者の利益を一方的に害する条項
民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合と比べ、消費者の権利を制限したり、消費者の義務を重くする契約条項で、民法の基本原則(信義誠実の原則)に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効とされます。
事業者と消費者のパワーバランスを図るのが消費者契約法ですから、そりゃあ、消費者の利益を一方的に侵害する契約条項が認められるわけがありませんね。
消費者契約法・宅建業法・民法の関係
「消費者契約法」や「宅地建物取引業法」は「民法」の特別法です。特別法は一般法(ここでは民法)に優先し、特別法の定めと矛盾・衝突しない範囲で一般法の規定が適用されます。
では、「消費者契約法」と「宅地建物取引業法」はどちらが優先されるのでしょうか。
この点、消費者契約法の11条第2項では次のように定められています。
「消費者契約法」は「民法や商法」の特別法ですが、「民法と商法」以外の法律と「消費者契約法」が適用される場合には、「消費者契約法」以外の法律が優先されます。
つまり…優先順位は次のようになります。
「宅地建物取引業法」>「消費者契約法」>「民法」
消費者契約法の瑕疵担保責任期間は1年
宅建業者が売主になる場合は宅建業法が適用され、瑕疵担保責任期間は引渡日から2年以上と定められています。実務では2年で定めるのが一般的です。
民法の原則では、瑕疵担保責任期間は瑕疵を発見してから1年間(損害賠償請求権は引渡後10 年で消滅時効にかかるとした最高裁判例があります。)になります。
では、消費者契約法が適用される売買契約では、瑕疵担保責任はどれくらいの期間で定めるのでしょうか…?
実は、明確に定められておらず、確定的な判例もまだ出ていません。ただし、3か月では短いとされた判例はあります。
そうすると、期間をどうやって設定すれば良いのか…悩ましい問題なのです。
宅建業法と同じ「2年」にしても、民法と同じ「発見してから1年」にしても、売主の事業者の負担が重くなってしまいます。
そのため、瑕疵担保責任の期間を1年で設定する契約をよく目にします。裁判になれば争われる可能性がないとは言えませんが、民法・宅建業法との関係性に着目して考えれば、1年という期間は間違いではないと考えられます。
というわけで、ゆめ部長が契約をサポートする場合、宅建業法が適用されず、消費者契約法が適用される売買契約では、瑕疵担保責任を「1年」とさせてください。
最後に…
消費者契約法は不動産取引に特化して定められた法律ではありませんから、条文を読んでもイマイチわからない…というのが正直なところです。また、消費者契約法が問題になる契約自体が少ないため、私たち不動産屋さんもあまり理解できていない法律になります。
そのため、知らないうちに消費者契約法違反の売買契約を行っている可能性があるので注意が必要です。
例えば…
「消費者」だと思っていた個人のお客さまが実は「事業者」だったにもかかわらず、「瑕疵担保責任免責」で契約してしまった場合はどうでしょうか?
不動産屋さんは責任を逃れることはできませんよね。
ゆめ部長も記事を執筆しながら「気を付けなきゃいけないな!」と改めて感じました。お客さまも不動産屋さんも消費者契約法には注意をしていただければと思います。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました!
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