不動産売買の「契約違反による解除」を解説!
不動産の売買契約は、売主さま・買主さまの双方が義務を負う「双務契約(そうむけいやく)」となります。それぞれが義務を負っているにもかかわらず、その義務を守らなかった時には契約違反となり、売買契約が解除になる場合があります。
この記事では、契約違反で解除できるかどうかの判断、違約金の額、違約解除できる人など「契約違反による解除」に関する事項をまとめておきます。
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
不動産売買契約・書重要事項説明書の文言を見ておきましょう!
上記の画像は(公社)全日本不動産協会の重要事項説明書の記載です。売買契約書では、次のような文言が記載されていますので紹介します。
「契約違反による解除・違約金」
1. 売主および買主は、その相手方が本契約にかかる債務の履行を怠ったとき、その相手方に対し、書面により債務の履行を催告したうえで、本契約を解除して表記違約金(以下「違約金」という。)の支払いを請求することができます。なお、違約金は、現に生じた損害の額の多寡に関わらず、増減はしないこととします。
2. 違約金の支払い、清算は次のとおり行います。
(1) 売主が違約した場合、売主は、買主に対し、すみやかに受領済みの金員を無利息にて返還するとともに、違約金を支払います。
(2) ) 買主が違約した場合、違約金が支払い済みの金員を上回るときは、買主は、売主に対し、すみやかにその差額を支払い、支払い済みの金員が違約金を上回るときは、売主は、買主に対し、受領済みの金員から違約金相当額を控除して、すみやかにその残額を無利息にて返還します。
不動産売買契約書類の内容を解説します!
契約の相手方が売買契約の義務を怠ったなら、書面で義務を果たすように請求(履行の催告)したうえで、売買契約を解除すると同時に、違約金を請求することができると記載されています。
では、違約金はどれくらい請求できるのでしょうか…?
ここは気になりますね!
通常の取引では、売買契約の10% または 20%を違約金として定めています。ゆめ部長の得意エリアである東京23区だと違約金が20%では高すぎますから、ゆめ部長は大手と同じで10%で定めるようにしています。
大手が10%にしているから…というのも1つの理由ですけど、都庁も20%は高いと考えているのが大きい判断理由です。不動産屋さんは簡単に売買契約を解除されたくないため、違約金を20%にしたがるでしょうけど、これは好ましくありません。
なお、宅建業者が売主になるときは、違約金 + 損害賠償額 で売買代金の20%を超えることができないと定められています。(解約料、キャンセル料、事務手数料等の名目を問いません。)そのため「20%まではいいよね。」という考えが蔓延しているのだと思います。
参考知識を1つ。
宅建業者が売主でなければ違約金の額に定めはありませんが、あまりにも高額な違約金を設定すると、公序良俗違反で無効になる可能性があります。万一に備えての取り決めですから、高く設定しないように注意してください。
清算には関しては書き方がややこしいので具体例を見てみます。
物件価格5,000万円・手付金300万円・違約金10%で契約したとします。
違約金は…5,000万円×10%で500万円ですね。
買主さまが違反した場合は、既に300万円を売主さまへ支払っていますから、200万円(500万円-300万円)を差額として支払うことになります。
売主さまが違反した場合は、既に受け取っている300万円を返還すると同時に、違約金の500万円を支払いますから、合計で800万円を支払うことになります。
お互い500万円を負担するだけです。
特に難しいことはありませんね!
最後に「損害賠償額の予定」に関して見ておきます。
通常、損害賠償をする側は、損害の発生とその金額を立証しなければなりません。しかし、損害を立証するのは大変な作業になりますから、相手に契約違反(債務不履行)があったことさえ立証できれば構わないことにして、請求できる賠償額をあらかじめ定めることがあります。これが「損害賠償額の予定」です。
損害賠償額の予定として、違約金を売買代金の10%相当額と定めた事例で考えてみましょう。先ほどの例でいうと違約金は500万円ですね。
違約金は「500万円」とあらかじめ決められているわけですから、実際の損失が100万円しかなかったとしても、1,000万円と高額になってしまったとしても、500万円で固定されます。この金額は裁判所であっても変更できない…と民法で定められています。
契約違反があればいつでも不動産売買契約を解除できるの…?
不動産の売買契約を解除できる権利はかなり強力だと言えます。なぜなら、口約束だけでなく、売買契約書へ署名捺印をして、手付金を授受して初めて成立する…というのが一般的だからです。(不動産の売買契約では、成立要件が民法の原則よりも厳しく、「買います」「売ります」という口約束だけでは契約が成立しません。)
成立させるのが大変な不動産取引を解除できてしまう権利ですから、どんな契約違反であったとしても契約解除ができる…というのは、少し乱暴ですよね。そこで、どの契約違反なら契約解除ができて、どの契約違反なら契約解除できないと考えるべきか…?を検討する必要が出てくるわけです。
【1】不動産売買契約を解除しやすい契約違反
相手方の責任が重い契約違反であれば、契約解除を認めるべきです。
■ 売買代金の支払い
■ 引渡し
■ 抵当権等の抹消
■ 所有権等の移転登記等
■ 引渡完了前の滅失・毀損(売主の善管注意義務違反)
■ 反社会的勢力の排除条項
■ 手付解除期日を過ぎた後の契約解除
上記の中で「引渡完了前の滅失・既存」は、少しわかりづらいので簡単な解説をしておきますね。
不動産売買契約を締結してから、実際に引渡しを受けるまでには、1か月~3か月程度の時間が空くのが一般的です。引渡しを受けるまで、買主さまは対象不動産を利用することも管理することもできませんから、売主さまが通常の注意義務よりも重い「善良な管理者たる注意義務(略して…善管注意義務)」を負うことになっています。
売主さまがこの義務に違反したことで、建物が壊れてしまったり、火災で燃えてしまい使えなくなってしまった場合、善管注意義務違反として売買契約を解除することができるのです。
この義務を売主さまが果たしていなければ責任重大!だから契約解除も仕方ないよね…ということになります。
【2】不動産売買契約を解除しづらい契約違反
次は売主さまの責任が【1】に比べて軽い契約違反です。契約解除できる場合もあるとは思いますが、弁護士先生への相談が必要になります。
■ 物件状況報告書の記載違反
■ 設備の引渡し
■ 境界の明示
■ 諸規定の継承
境界の明示に関しては、一戸建て・土地の契約書に記載されています。売主さまは、引渡時までに、現地で境界票を指示して境界を明示する義務を負っています。この義務を怠っただけであれば契約違反による解除は難しいです。
ちょっと深堀りすると…
道路面を含めた隣地との境界を確定させ、測量図面を作成することが条件になっていたにもかかわらず、隣地の住人が立ち会ってくれなかったり、境界確認の押印をもらえなかった場合、解除になる可能性があります。
その他「越境の解消」・「私道の通行掘削承諾書の取得」などを契約条件にしていたにもかかわらず、売主さまが条件を満たせなかった場合も契約解除になる可能性があります。
このようなケースでは、通常、下記のような文言を入れることで「解除条件付」契約にします。
なお、売主の責に帰さない事由により同覚書が取得できない場合には、令和○年○月○日までであれば、売主および買主は本契約を無条件にて解除することができます。この場合には、売主は買主に対し、受領済の金員を無利息にて速やかに返還しなければなりません。
解除条件付契約とは…
一定の事実の発生により契約の効力が消滅する契約のことを言います。例えば、住宅ローンの本審査が内定しなかった場合に使う「住宅ローン特約」は解除条件になります。住宅ローンの借り入れができないという事実が発生したため、それまで有効に成立していた売買契約の効力が消滅することになるわけです。
「違約金を支払えば不動産売買契約を解除できる」は誤り!
手付解除では、手付金放棄・倍返しにより、自由に契約を解除することができました。しかし、契約違反による解除の場合、自由に解除することはできません!
ココ、間違いが多いので気を付けてください!
契約違反があった場合、その相手方は次の「どちらかを選択」することができます。
■ 契約の履行(義務を果たすこと)
■ 契約を解除して違約金を請求する
買主さまが残代金を支払わないなどの違約をした場合、売主さまは、違約金を請求しても良いですし、残代金を支払うように求めることもできます。
売主さまが所有権移転に協力しないなどの違約をした場合、買主さまは、違約金を請求しても良いですし、不動産を引き渡すように求めることもできます。
買主さまが購入を断念して契約を解除する場合、「違約金を払えばいいんでしょ!」と言う権利はなくて、売主さまに選択権があるということですね。
とは言え、ムリヤリ「購入してもらいますからね!」と主張する売主さまはいないでしょうけど…。
違約金以外に遅延損害金を定めることも可能だけど…
この項目は参考知識なので読まなくてもOKです!(2020年6月3日加筆)
ゆめ部長が知り合いから聞いた売買契約が解除になったケースを2つ見てください。
解除事例1…
不動産会社がリノベーションを行った中古戸建を外国人のお客さまが購入。売買契約から2か月後に残代金決済(=引渡)を行う予定でしたが、海外から送金することができず、何度かリスケジュール。結局、購入資金を準備することができず、半年以上経過した後に売買契約を解除することになったそうです。
解除事例2…
マイホーム(一戸建て)を売却して、都心の2LDK・駅近マンションへ住み替えるために売買契約を締結。3か月後にマイホームの引渡を行い、同日、すぐに新居の引渡を受ける予定でしたが、マイホームの購入者が両親からの資金援助を受けられなくなり、引渡を3週間ほど延期することになりました。しかし、3週間経っても事態は改善されず、結局、売買契約は解除されたそうです。
どちらの事例も違約解除になるケースですね。
事例1のように半年も待つことは通常あり得ないと思いますけど、事例2のように引渡期限を1ヶ月程度延長する覚書を結ぶことはあるでしょう。
こんな場合に備えて、遅延損害金(年14.6%)の支払いに関して売買契約で定めておくことができるみたいです。マイホーム売買の契約書で見たことがなかったので知りませんでした…。まぁ、FRK・全日・全宅の書式で定めがないわけですから、特約を追加しない方が良いと思われます。
なお、遅延損害金の定めは、事例1のように不動産屋さんが売主になる場合であり、違約金が20%と定められていても上乗せして請求できるそうです。ただ、宅建業法38条「損害賠償額の予定等の制限(違約金は20%までだよ!という定め)」の趣旨を考えると好ましくありません。
というわけで!
売主さまが、不動産屋さんだろうと、個人であろうと、遅延損害金の定めは止めておくのが無難だという結論になります。契約が解除される場合は違約金を請求。契約が解除されず引渡が延期されだけなら実損害(家賃・引越屋さんキャンセル料など)を請求するようにしましょう。
参考知識…
なんで14.6%になるのかな…と思い調べてみました。日歩(ひぶ)4銭…つまり、100円あたり1日4銭の利息がつくので、365日だと利息が1460銭=14.6円になるという計算になります。
ネット情報は間違いが多くて…よくわからない。
契約解除に関する情報をネットで検索してみたら、「なぜそんな議論をする必要があるんだろう…?」と思うことがたくさんありました。記事を読み込んでみると、通常の不動産取引ではそんな定め方をしていませんが…?と思う内容を解説していたりします。
例えば…
個人間の取引なのに「契約の相手方が履行に着手するまでは手付金を放棄して契約を解除できる…」などと解説しています。しかし、しっかりした契約書を使っていれば、個人間の契約では具体的な手付解除期日を定めていますし、相手方が履行に着手しているかは問わない、と定められています。
手付解除期日を誤ってしまうと、知らぬ間に手付解除期日を過ぎてしまい、手付解除ではなく契約違反による解除をしなければいけなくなるケースもあるわけですから、怖いな…と思いました。
宅建業法や不動産取引の実務を理解していない人が記事を書くからダメなんですよね。いろんな記事を読んでみましたけど、よくわからないものが多かったです。
不動産売買契約書・重要事項説明書は全日・全宅・FRKの最新書式なら安心!
多くの不動産屋さんが加盟している団体(全日・全宅・FRK)の最新書式を使用して契約していれば、宅建業法・消費者契約法・民法・商法などの定め、判例の考え方などをしっかり取り入れてあります。
また、膨大な数の不動産取引を行った経験から、妥当な結論を導くための取り決め・注意事項などを書式に反映させてあるので、安心して取引することができます。
契約解除などでトラブルに合わないように、知識と経験がない不動産屋さんと契約しなように注意してくださいね!それと、心配になることがあれば、ネットに頼らず、弁護士先生へ早めに相談しましょう。
最後に…
ゆめ部長は不動産仲介の仕事を19年続けてきましたが、違約解除したことは1度もありません。
契約解除のトラブルに発展しそうであれば、早めに状況を確認して、相手方と情報を共有しているのがポイントだと考えています。
相手方へ状況を密に報告していれば、問題が発生しても怒りを抑えられますし、期限延長の合意書取得などにも協力してもらえる可能性が格段に高くなります。相手方の都合を思いやる気持ちが大切なのは当然のことですよね。
ゆめ部長は「違約解除になる可能性が高くて危険だな…」と感じれば「手付解除期日までに解除をするべき」だとアドバイスしています。契約解除のアドバイスをしたくない不動産屋さんの方が圧倒的に多いでしょうけど、高額な違約金が発生する違約解除だけは避けたいところです。
また、本当にやむを得ない事情(契約したご主人が交通事故で死亡・急に解雇されたなど)で解除する場合には、違約解除ではなく手付解除できるように交渉しますし、可能であれば、手付金の一部返還をお願いすることもあります。厳しい交渉にはなりますけど、「合意解除」ならノーペナルティーで解除できることもあります。
この場合は、仲介手数料のお支払いに関してもご相談に乗ります。「儲けることを最優先にはしない。」それがゆめ部長のポリシーです!
こんなサポートに魅力を感じてもらえたならお問い合わせくださいね。皆さまとお会いできるのを心より楽しみにしていますので、よろしくお願いします!!
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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