クーリングオフによる不動産売買契約の解除を解説!
クーリングオフ(Cooling-off)という言葉は聞いたことがありますよね?この制度は、消費者に頭を冷やしてよく考える期間を与え、一定の期間内であれば、一方的に売買契約を解除できるというものです。
不動産売買でもこのクーリングオフ制度はありますけど、少しわかりづらいので解説してみたいと思います。宅建試験で覚えるような小難しい話はなしにして、できるだけわかりやすくまとめていきますね!
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
不動産売買でのクーリングオフ制度とは…?
不動産取引のクーリングオフ制度を簡単に説明しておきます。
不動産は高額な商品であるにもかかわらず、不動産屋さんの強引な営業に負けて「契約します…」と言ってしまうケースがたくさん存在しています。また、現地を見て舞い上がってしまい、よく考えずに購入申込したりすることもあるでしょう。
ノリと勢いで購入申込した結果、住宅ローンの支払いをどうするかで夫婦ゲンカが始まってしまったり、営業トークに負けて契約してしまったことをずっと後悔していたり…。こんな悲しいことも現実に起こっています。
そこで、一定の条件を満たすような場合には、消費者(買主さま)を保護するために売買契約の「白紙解除」を認めることにしました。
「白紙解除」すると売買契約は最初からなかったことになります。その結果、売買契約時に支払った手付金が返還され、仲介手数料の請求権も一緒に消滅することになります。
詳細は「宅建業法 第37条の2」に定めがありますけど、条文を読むのもメンドウですよね。この記事での条文紹介はやめておきますけど、法律が作られた理由だけは一緒に確認してみましょう。
目的1…
不動産取引を円滑にすることで紛争を防止したい!
目的2…
不動産取引に精通していない消費者の保護を図りたい!
つまり、法律が不動産屋さんからお客さま(消費者)を守ろうとしているわけです。ただし、全てのケースで消費者を守るのが適切か…というと、そうでもありません。
契約には「拘束力」があり、いくら不動産のプロである宅建業者といえども、なんでもかんでも契約を自由に解除できるようにされてはカワイソウだといえます。
では、どういう場合にクーリングオフすることができて、どういう場合はクーリングオフできないのか…?
この点をわかりやすくまとめるために、次の3つの項目に沿って解説します。
■ 当事者が誰なのか?
■ どこで「購入申込」「売買契約」をしたのか?
■ クーリングオフできない例外に該当しないか?
不動産売買契約の売主・買主を確認しよう!
先ほどもお話したように、クーリングオフ制度は、不動産のプロである不動産屋さんから消費者を守るために作られた制度です。
そのため、クーリングオフできるのは次のケースに限定されます。
売主さま:宅建業者 買主さま:消費者
つまり、対象になるのは、主に次の物件になります。
■ 新築一戸建て
■ 新築マンション
■ リノベーション済みのマンション
■ リノベーション済みの一戸建て
これらの物件ですと、宅建業者が売主として販売している可能性が高いですよね。
では、逆に、クーリングオフできないケースを3つ見てみましょう。
売主さま:宅建業者 買主さま:宅建業者
このケースは、この記事を読んでくれている皆さまには関係ありません。プロ同士の売買契約ですから放っておきましょう。
売主さま:消費者 買主さま:宅建業者
このケースは、中古マンション・中古戸建・土地などを不動産買い取り業者に売却する場合です。急いで売却したい・コッソリ売却したい・住み替えをうまく行うために買取をしてもらいたい…こんなニーズに対応する案件でしょう。
プロが焦って購入したら…それは自己責任。
仕方ありませんね。
売主さま:消費者 買主さま:消費者
不動産屋さんではない「個人」が所有している中古マンション・中古戸建の売買を思い浮かべてください。プロではない「個人同士」が売買契約を行いますから、知識や経験に大きな偏りはありませんよね。だからクーリングオフはできないのです!
というわけで、クーリングオフできるのは、売主さまが「宅建業者」で、買主さまが「消費者」の場合に限られるということでした。
ちょっと追加しますと、買主さまが法人だったとしても「宅建業者」でなければクーリングオフできます。法人だからと言って不動産取引に精通しているわけではありませんからね。
「購入申込」「売買契約」した場所を確認しよう!
クーリングオフ制度の目的は、慌てたり、焦らされたりして、購入申込・売買契約してしまった時に、冷静になり、もう1度考え直すための期間を作ることでした。
そのため、じっくり考えられる状況で購入申込・売買契約をしていたのであれば、この制度を使って売買契約を解除することはできません。
この場合は「手付解除」「違約解除」の定めに基づいて売買契約を解除することになりますから、クーリングオフのように白紙解除にはならないので注意が必要です。
一定の状況であれば、皆さまは保護されますけど、売買契約を締結するということを軽く考えず、大きな責任が発生することを自覚しておいてくださいね!
では、どういう場合だと「じっくり考えられる状況にあった」と言えるのでしょうか?
それは「事務所など」で購入申込や売買契約をしたかで判断されます。
宅建試験のテキストに書かれたことを細かく書くとわかりづらいので、事務所「など」を簡単にまとめておくと…
■ 宅建業者である売主さまの事務所
■ 仲介会社の事務所
■ 新築マンションのモデルルーム
などが該当します。
逆に言えば、新築一戸建てや土地の現地販売会(テント張り)などで購入申し込みをした場合は「事務所など」には該当しません。ここで購入申し込みをしたのであれば、じっくり考えらない状況だった…と判断されるわけですね。
もし、微妙だな…と思ったら都庁(県庁)へ確認してみることをオススメします。
次に、「購入申込」と「売買契約」を行った場所が別々だったら…という問題があるので見ていきましょう。
売買契約 | 事務所など | 事務所以外 | 事務所以外 | 事務所など |
購入申込 | 事務所など | 事務所など | 事務所以外 | 事務所以外 |
クーリングオフ | × | × | ○ | ○ |
購入申込をした場所が
「事務所など」なら「×」
「事務所以外」なら「○」
ということになります。
なお、購入申込をしてから、数日後に売買契約を行うのが一般的ですけど、即日・その場で売買契約を行うこともあると思います。その場合は、売買契約をした場所で判断してください。
次のケースはどうでしょうか。
購入申込をした「申込者」・売買契約をした「買主さま」が申し出た場所で、申込や売買契約を行った場合…
自分で指定した場所へ不動産屋さんに来てもらっているわけですから、落ち着いて判断することができますよね。不意打ちで突撃訪問されて焦ったわけではないですし、購入意思があり、自発的だったと判断できるでしょう。
結論:クーリングオフはできません。
ただし、申し出た場所は次の2つに限定されます。
■ 自宅
■ 勤務先
「不動産屋さんが自宅や勤務先に来るのはイヤだから、喫茶店かファミレスに来てもらおう。」と考えるお客さまは多いと思いますけど、不動産屋さんからすると、クーリングオフされてしまうかもしれないので、正直、避けたいところです。
この記事を読んでいれば、喫茶店やファミレスでの面談を不動産屋さんから断られても納得できますね!
そうだ…。この記事を読んでくれているのであれば、こんな悩みもあるかもしれません。
不動産屋さんが「お客さまの自宅へ伺うので購入申込書を書いてください!」と言って押しかけてきたんだけど…この場合はどうなるのかな…??
回答:この場合もクーリングオフの対象になります。
自宅へ来ることを「申出」したのではなく「提案」されたわけですからね。
クーリングオフできない例外規定を知っておこう!
クーリングオフを利用できなくなる2つのケースを確認してください。
ケース1:契約履行関係が完了したとき
不動産の売買契約は双務契約(そうむけいやく)です。つまり、売主さまは不動産を引き渡す義務があり、買主さまは残代金(売買代金から手付金を引いた金額)を支払う義務があります。どちらも「義務」を負っているということですね。
通常、不動産売買契約では、残代金決済日を定め、残代金支払い・鍵の引渡・所有権移転登記などをまとめて行います。
この残代金決済が完了した時点が「契約履行関係が完了したとき」となります。登記が終わっているかどうかは関係ありませんけど、残代金の支払いと物件の引渡が終わっている状態になるとクーリングオフはもうできません。
残代金決済まで終わっているにもかかわらず、過去のことを持ち出して「白紙解除したい!」というのでは、あまりにも買主さまの権利が強すぎると言えますよね…?
ケース2:クーリングオフ制度の概要を書面で告知してから8日経過
クーリングオフ制度を利用できる場合、申込者さま・買主さまは、宅建業者から申込の撤回または契約解除を行うことができること、および、その方法を書面を使って説明を受けます。
書面には記載事項が定めらていますので次のファイルをチェックしてみてください。
告知を受けた日を起算日として8日以内であれば、クーリングオフ制度を使って契約を白紙解除することができますが、8日を経過した後に自己都合で解除したいなら、手付解除・違約解除などペナルティー有りの解除になってしまいます。
なお、8日以内の意思表示は「発信主義」がとられています。つまり、「クーリングオフ制度で白紙解除しますよ。」と意思表示したのが8日以内であればセーフということです。
具体的には、配達証明付き内容証明郵便で行うようです。「行うようです。」と書いたのは、ゆめ部長は15年以上の経験でクーリングオフによる解除をしたことがないためです。
慌てさせたり、焦らせたりすることで「契約させてやる!」とは考えていませんので、ゆめ部長にとっては、あまりご縁がないと感じる制度だと思っています。
ちなみにですけど、クーリングオフできるにもかかわらず、宅建業者が書面を使って告知していない場合は、残代金決済が終わるまでの期間であれば、いつでも白紙解除できることになります。
こんな場合は宅建業法違反!!
不動産屋さんがこんなことをしていたら宅建業法違反です!
クーリングオフされたくないからといって…
「クーリングオフしないことに同意してください。」
「クーリングオフする場合は損害賠償請求します。」
「クーリングオフする場合は違約金をお支払いください。」
などの定めをするのは禁止されていて、全て無効です。
消費者を保護するための強行規定(=契約などによって変更できない規定)ですから、宅建業者が自由にこの規定を変更することはできません。もし、違反しているのであれば、宅建業者は業務停止などの厳しい行政処分を受ける可能性があります。
ヒドイ不動産屋さんに当たって困っている場合は、都庁(県庁)に相談してください。不動産屋さんに落ち度があれば、最強の味方になってくれますからね。
最後に…
今回も5000文字オーバーの長文記事になってしまいましたので、そろそろ終わりにしますね。
最後に…。
この記事をまとめながら改めて感じたことは、私たち不動産屋さんは、お客さまの不安・悩み・怒りなどを解決しながら一緒に並走するパートナーであるべきで、購入意思が確実になってからお話を進めなければいけないということです。
クーリングオフ制度を適用するような案件は「論外」であるということを、新人さん・後輩さん・社員の皆さんにも伝えていこうと思いました。
【不動産業界がより良い業界になりますように。】
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
参考記事…
“不動産の「悩み・不安・怒り」を解消するぞー✨ のお役立ち情報をツイート ✅ホンネで語るよ ✅業界の裏側…コッソリ教えるよ ✅役立つ知識を集めて発信するよ ✅さんへ優しく解説するね ✅ガンバル不動産屋さ…
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