不動産屋さんが売買契約日よりも前に「重要事項説明」を行っていない理由
不動産を購入するかどうか最終判断をするために行われる「重要事項説明」ですが、不動産取引の実務では、売買契約の当日にサラッと曖昧に行われることが多くあります。
最終判断をするために「重要な事項」の「説明」を受けるわけですから、本来であれば、売買契約日よりも数日前に説明を聞くのがベストだと言えます。それに、不動産取引では普段聞きなれない言葉がたくさん出てくるので、予習なしに説明を聞いても理解できるはずがありません。
とはいえ、ゆめ部長も売買契約前に重要事項説明を行うことは稀です。理想を言えば、売買契約の3日くらい前に対面で重要事項説明を行い、納得してもらってから売買契約の当日を迎える…という流れにしたいのですが、不動産取引ならではの難しさがあって実現できていません。
この記事では、重要事項説明が売買契約の当日になっている理由を解説したいと思います。
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
理由1:重要事項説明書を作成するのが大変!
不動産の売買契約が決まると、重要事項説明書・売買契約書・関連書類を作成するために不動産屋さんはものすごく忙しくなります。
やることは次の通りです~
■ 現地調査
■ 法務局調査(最近はネットで調査できます)
■ ライフライン調査
■ 役所調査
■ マンションなら管理会社調査
簡単に見ていきましょう。
現地調査
「付帯設備表」・「物件状況報告書」を作成するために現地で調査を行います。設備・境界票・越境・残置物・ゴミ置場などを確認。全ての案件で行うわけではありませんけど、事件・事故・トラブル・浸水履歴まで調査することがあります。
法務局調査
謄本・公図・測量図・建物図面などを取得します。公図がグチャグチャになっていたり、土地が細かく分かれていたり、私道の所有者が多かったりすると、状況を把握するのに時間とお金がかかります。
ライフライン調査
東京23区であれば上水道・下水道・ガスの埋設管はネットで調べられます。ただし、一戸建ての契約であれば、上水道についてはさらに細かい書類「給水装置図面」を取得することもあります。この書類は売主さまから委任状をもらい、水道局に行かなければいけません。上水道は埋設管の口径・種類・時期なども重要なんですよ。
役所調査
マジメに調査するとかなり疲れます。慣れた役所で新築一戸建ての調査をするなら1時間~1時間30分程度で終わります。しかし、調査項目が多い物件ですと、1回で調査しきれず、2回・3回と再調査したこともありました。「調査なんて簡単だよ!」という不動産屋さんをたくさん見てきましたけど、物件調査をどうやればいいのか?を知らない人ばかりですね。
管理会社
マンションなら、管理会社から「重要事項調査報告書」を取得しなければいけません。申請書類を記入して、代金を振り込んで、そこからFAX・郵送してもらいます。管理会社が保管している書類の確認も必要です。また、重要事項調査報告書をもらってから、記載事項に関するヒアリングも行います。場合によっては管理人さんにもヒアリングをしますので大変な作業なんですよ。
ここまで調査して、やっと、重要事項説明書・売買契約書の作成に入ります。
ゆめ部長は書類をしっかり読み込み、お客さま目線で書類を作成するので、書類作成だけでも丸1日かかります。物件調査で半日~1日を加えると、2日以上かかってしまうわけです。
また、時間・労力だけでなく、費用も必要ですね。調査費用は安くて数千円、高いと数万円にもなり、この費用は全て不動産屋さんが負担することになります。
作成するだけでもこれだけ大変な重要事項説明書。「購入するかどうかを判断するために送ってください。」と軽く言われても困るわけです。ネット銀行の中には「住宅ローンの本審査をするには重要事項説明書が必要です。」という条件を付けてくることがあり、正直、イヤになることもあったり…。
理由2:不動産は一点物で競争になることが多い
不動産はこの世に全く同じものがありません。個別性が強くて代替性が低い商品なので、競争が起こりやすく、のんびりしていると他のお客さまに契約されてしまう可能性があります。
だから、売買契約を早めに行う必要がある。
理想とは異なりますけど、これも事実です。
買主さまは、こう怒るかもしれません。
「高額な買物なのに、なんで、そんなに焦らせるんだ。じっくり検討する時間をくれてもいいだろ!!」
でも、逆に、売主さまの立場ならどうでしょうか?
「検討してくれている人がいるのに、なぜ、あなたを優先させなければいけないんですか?高く売るチャンスを逃したら責任を取ってくれるんですか!?」
と、言いたくなりませんか?
不動産は、購入する人にとっても、売却する人にとっても、「高額な商品の売買」であることは同じなのです。
買主さま同士の競争があり、売主さまの事情がある。
そして、
不動産屋さんが重要事項説明書の作成に手間がかかる。
こんな理由から、不動産購入申込書を提示してから、売買契約までの期間は、3日~1週間くらいになることが多いでしょう。
土曜日・日曜日に申込をもらっても、火曜日・水曜日が不動産屋さんの定休日ですから、対面で重要事項説明をするための半日が作れない…ということがわかると思います。
不動産屋さんの仕事を軽く考えている人への“グチ”
ちょっとだけ “グチ” を入れさせてください。
「他社で契約になってしまうなら、それは、仕方ないから構いませんよ。」と軽く上から目線で言うお客さまがいますけど、自分の都合しか考えていない発言だと思うんですよね…。
不動産屋さんの視点で考えてみると、
理由1の事情だけでなく、その不動産を検討してもらうために使った時間も書類を作成した時間も全てがタダ働きになり、新しい候補物件を探す手間と時間が追加で必要になります。
仲介手数料が「成功報酬制」ではなく「1業務ごとの課金制」なら構わないですけど、これ、お客さまは絶対に嫌がりますよね?
例えば、こんな課金制はどうですか。
現地案内 … 1回10,000円~30,000円
住宅ローン相談 … 2時間で10,000円
住宅ローン事前審査代行 … 1金融機関10,000円
物件調査 … 30,000円
契約書類作成 … 50,000円
すっごく…嫌ですよね?
「他の家、またお願いね!」と気安くは言えませんよね?
「構わない。」と言えるのは、自分のやることが増えるわけではないし、サービスを無料で受けられるからです。この隠れたホンネに気付いて欲しいものです。
参考までに…
随分前の話ですけど、大手の仲介会社で「重要事項説明を行ってから3日程度あけないと売買契約できない」というルールを決めていた記憶がありますが、今は聞かなくなりました。
やっぱり、ノルマを達成できなかったのだと思います。
最後に…
不動産屋さんの仕事を始めた15年前と比べると「無料でサービスを受けられて当然!」と思っている人が信じられないほどたくさんいます。増えている気がする…ではなくて、絶対に増えています。
スーモ・アットホーム・ホームズなどの「不動産ポータルサイト」は広告費を不動産屋さんが負担しますから無料で見られますよね。資料請求しても、現地内覧しても無料です。
さらに、一括査定サイトでは気楽に3社~10社くらいに査定金額を出してもらえます。売却する不動産は1件しかないわけですから、どれだけの不動産屋さんにタダ働きさせているのか…。
このように、不動産屋さんがIT・広告会社に利益を奪われ過ぎなのは大きな問題ですし、仲介手数料が「成功報酬制」なのも問題だと思います。不動産屋さんが働きがいのある環境を整えることも、お客さま満足度の向上には不可欠なのではないか…と最近考えています。
正義の敵は悪ではなく、また別の正義。理想と現実のギャップに悩みながら、今日も1日コツコツ改善していきます。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
参考記事…
“不動産の「悩み・不安・怒り」を解消するぞー✨ のお役立ち情報をツイート ✅ホンネで語るよ ✅業界の裏側…コッソリ教えるよ ✅役立つ知識を集めて発信するよ ✅さんへ優しく解説するね ✅ガンバル不動産屋さ…
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