代理人と不動産売買契約を締結する際の注意点を宅建マイスターが解説します!
不動産の売買契約では、売主さま・買主さまが対面で売買契約を行えない場合があります。たとえば、売主さまが海外に住んでいたり、老人ホームに入所していたり、病気や怪我で入院していることも考えられますよね。
このようなときに、代理人を立て、代理人が本人に代わって売買契約を行い、残代金決済まで全ての手続きを行うことがあります。こんな代理人との不動産取引では注意してほしいことがいっぱいあるので、宅建マイスターがしっかり解説しておきたいと思います!
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
代理人による不動産売買契約の基礎知識
不動産取引での「代理」は、代理人が本人のために売買契約を行うと、本人と相手方との間で契約の効力が生じるというものです。
具体例で考えていきます!
皆さまが不動産を売却するために、ゆめ部長を代理人として選任しました。ゆめ部長が物件情報をレインズへ掲載して販売活動を行ったところ、地元の不動産屋さんが買主さま(Aさん)を見つけてきてくれました。
不動産を売却したい皆さま:本人
ゆめ部長 :代理人
Aさん :相手方
ゆめ部長が地元の不動産屋さんを通してAさんと売買契約を締結すると、この売買契約は、皆さま と Aさん との間で有効に成立したものとされます。
これが、代理人による契約です。
先ほども書きましたけど、次のようなケースで利用します。
■ 本人が海外居住中・老人ホーム入居中・病院入院中
■ 単身赴任中のご主人のために奥さんが代理人になる
■ 共同相続人の1人が代表者として代理人になる
■ 認知症を患い弁護士先生が代理人になる
■ 投資家を顧客に抱える不動産屋さんが代理人になる
などなど。
超高齢社会の日本では今後さらに需要が増しそうですね。
もう少し深堀していきます!!
代理には「法定代理」「任意代理」があります。
法定代理人は親権者です。
法律によって当然に代理権が生じ、
法律によって代理権の範囲が定められています。
任意代理人は自由に選べます。
代理権を授与する契約によって代理権の範囲が定められます。
次は、代理人の売買契約が有効になるための3要件を見ましょう。
【1】代理人に代理権があること
【2】顕名(けんめい)すること
【3】意思表示(代理行為)すること
顕名というのは、売買契約書に「売主:○○ 代理人:○○」と署名することです。【2】と【3】は売買契約に署名すればOKです。
【1】がちょっとメンドウです。
代理権が本当はなかった…ということがあり得ます。
■ 代理権がない親族だった
■ 代理権がない詐欺師だった
■ 売却を止めると伝えたのに売却された
■ 賃貸してほしいと伝えたのに売却された
■ 委任状の有効期限切れなのに売却された
1つ目と2つ目は無権代理人が行った売買契約で無効です。
親族の1人が勝手に不動産を売却するケースは要注意。親族の立場を利用して、実印と印鑑証明書を取得しやすいからです。
また、詐欺師が実印や印鑑証明書を偽造していることも考えられますね。詐欺師であることを見破れなければ、売買契約は無効だったとしても、手付金や残代金を盗み取られてしまうリスクがありますよね。これは絶対に避けなければいけません!
他の3つは「表見代理」といいます。代理権がなく、代理権があるように「見えてしまう」という点で本人にも責任があります。この場合、代理権がないゆめ部長の売買契約の効果は、本人である皆さまとAさんとの間で生じることになります。
実務で注意するべきことをもう少し考えておきます。
2つの注意点をチェックしてください。
意思無能力による無効…
皆さまがゆめ部長へ委任状で代理権を授与しました。しかし、委任状を書いたとき、認知症の症状があり正常な判断ができない状態だったとします。本当は売る気がない不動産を安く売却する!と言ってしまった場合、この代理契約および売買契約は有効でしょうか?
答え…
代理契約は意思無能力により無効。
売買契約は無権代理になるため無効。
具体的な判断は裁判になると思います。
行為能力の制限による取消し…
次は、皆さまが成年被後見人であることをゆめ部長が見逃してしまい、代理契約に基づいて不動産の売買契約を締結してしまった場合です。
行為能力というのは「単独で確定的に有効な法律行為をなす能力」を言います。行為能力が制限された人を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人)と呼び、1人で不動産売買などをさせるのは危険なのでサポートを付けることになります。
能力が1番低い「成年被後見人」が単独で売買契約を行えば、この契約は取り消すことができてしまいます。また、家庭裁判所の許可を得ずに自宅を売却した場合、この契約は無効です。
売買契約が「無効」・「取消し」になってしまったら大問題。お客さまはすごく困りますよね…。
代理人による契約の注意点を簡単にまとめます。
■ 代理人に代理権があるのか?
■ 本人に意思能力があるのか?
■ 本人が制限行為能力者ではないか?
このあたりをしっかりチェックしてくださいね。
というわけで、具体的な方法を順番に見ていきましょう!
本人の意思確認・判断能力を確認しよう!
代理契約では、本人が売買契約に来てくれないわけですから、本人が本当に 売却 or 購入 する意思があるのかどうか??をしっかり確認しなければいけません。
もしかしたら…
本当は売却する気がないのに、親族の1人が実印と印鑑証明を持ち出し、勝手に不動産を売却して現金を持ち逃げしようとしているかもしれませんからね。
具体的な確認方法…
電話で意思確認します。でも、電話番号を調べられない場合があるでしょうし、代理人から教えてもらった番号が代理人の知り合いの電話番号で「はい。間違いなく、売却する意思があります!」と嘘をつかれる可能性も考えられます。
そのため、面談で意思確認することが推奨されています。
本人が高齢者であれば、面談することで、認知症を患っていないか確認する機会が生まれますから、たしかにこの方法がベストでしょう。しかし、不動産取引の現場を見ていると、意思確認のために会いに行く不動産屋さんは少ないような気がします。
意思確認だけでなく、しっかり判断できる人かどうかを見極めることも大事な作業です。
電話・面談で判断能力(意思能力)を確認する場合、いくつか質問を投げかけます。「はい」「いいえ」で回答できるような質問ではなく、具体的な回答を引き出す質問をするのが良いそうです。
たとえば…
「年齢はおいくつですか?」
「売却する不動産を教えてください」
「なんのために不動産を売却するのですか?」
「売却後はどこに住む予定ですか?」
などなど。
質問と回答のやり取りは、できれば、動画などで残しておくのが望ましいです。
もし、このとき、認知症が疑われる状況であれば「成年後見制度」の利用を検討しなければいけません。成年後見制度を利用すると、契約できるようになるまで3ヶ月~4ヶ月かかり、費用も15万円~20万円ほどかかるそうですが、後で契約が無効になるよりはずっとイイですよね。
制限行為能力者かどうか?を確認しよう!
成年後見制度を利用している場合、東京法務局で「登記事項証明書」を取得することができます。利用していなければ「登記されていないことの証明書」が発行されます。
つまり、売却する本人が制限能力者でないことを確認するためには「登記されていないことの証明書」を取得することも大事です。特に65歳以上の高齢者である場合には、媒介契約締結前に取得してもらいたい書類になります。
なお、この書類は東京法務局へ出向かなくても郵送で請求できます。ただし、個人情報になりますので、請求できるのは、本人・本人の四親等内の親族およびそれらの人から委任を受けた代理人に限られますのでご注意ください。
なお、「登記されていないことの証明書」があっても、判断能力があることは証明されません。少なくとも「成年後見制度を利用していない」ということがわかるだけです。
委任状(代理権授与)の内容を確認しよう!
代理権授与は委任状を使って行います。
委任状の記載事項は…
■ 物件の表示(どの不動産を売買するのか?)
■ 売買金額
■ 代理権限の範囲(契約締結以外に金銭授受なども含まれるか?)
■ 有効期限と委任日
■ 委任者・受任者の署名捺印(実印) など。
代理権の範囲を超えてしまえば契約が無効になる可能性がありますから、代理権の範囲や有効期限は要チェックです。
なお、署名捺印ですが、高齢者の場合、文字が書けないこともありますよね。この点、保証協会の先生に質問してみましたら次のような回答でした。
お子さんが記入をサポートしたり、代筆することも問題はありません。ただし、偽造が疑われる可能性もあるため、動画・写真・音声などを証拠として残しておくのが望ましいでしょう。
「お父さん、自宅を売却するために、私が委任状を代筆しますからね。」と伝え、実際に書類に署名捺印をするところまで撮影すると良さそうです。
本人と代理人の本人確認をしよう!
本人確認は書類を使って行います。売却 or 購入 する「本人」と「代理人」どちらも確認しましょう。
確認したい書類は次の通りです…
本人の確認書類
■ 権利証 または 登記識別情報通知
■ 運転免許証・パスポートの写しなど
■ 印鑑登録証明書
■ 住民票(住所変更時のために)
■ 実印を押印した代理権授与の委任状
代理人(個人)の確認書類
■ 運転免許証・パスポートの写しなど
■ 印鑑登録証明書
代理人(法人)の確認書類
■ 担当者の本人確認資料・従業者証明書・名刺
■ 不動産会社の印鑑登録証明書・履歴事項証明書
売主が未成年者の場合…
■ 戸籍謄本(親権者を確認する)
■ 親権者の印鑑登録証明書
売主が成年被後見人の場合…
■ 登記事項証明書
■ 成年後見人の印鑑証明書
■ 家庭裁判所の許可書
売主が相続人(相続登記前)の場合…
■ 戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本等・全相続人を確定できる書類
■ 遺産分割協議書 or 遺言書
本人確認を怠る不動産屋さんが多いので注意してください!
代理人が売買契約書へ署名捺印する方法
代理人さんが重要事項説明書・売買契約書などで署名・捺印する際によくある質問を見てみましょう。
■ 誰がどうやって記入すればいいの?
■ 押印はどうすればいいの?
ケースに分けて順番に見ていきます!
ここは流し読みで大丈夫です。
共有(ご主人・奥さん各1/2)で奥さんが売主代理人として契約
売主
住所:東京都練馬区豊玉西1-2-3
氏名:ご主人
上記代理人 および 本人
住所:東京都練馬区豊玉西1-2-3
氏名:奥さん 実印
※ 奥さんが記入。押印は奥さんのみでOK
ゆめ部長を売主の任意代理人として契約
売主
住所:東京都練馬区豊玉西1-2-3
氏名:皆さま
上記代理人 および 本人
住所:東京都練馬区豊玉東3-2-1
氏名:ゆめ部長 実印
※ ゆめ部長が記入。押印はゆめ部長のみでOK
息子くん(未成年)の親権者であるゆめ部長が売主の法定代理人として契約
売主
住所:東京都練馬区豊玉東3-2-1
氏名:息子くん
上記法定代理人
住所:東京都練馬区豊玉東3-2-1
親権者:ゆめ部長 実印
親権者:嫁ちゃん 実印
※ ゆめ部長が記入。押印はゆめ部長と嫁ちゃん。
※ 両親が法定代理人になります。
成年後見人が成年被後見人である売主の法定代理人として契約
売主
住所:東京都練馬区豊玉下4-5-6
氏名:【成年被後見人の名前】
上記成年後見人
住所:東京都練馬区豊玉東3-2-1
氏名:ゆめ部長 実印
※ ゆめ部長が記入。押印はゆめ部長のみでOK
破産管財人が売主として契約
破産者 【破産者の名前】破産管財人
売主
住所:東京都千代田区○○町○-○-○-○○○号室
氏名:弁護士 【弁護士先生の名前】 印
※ 押印は裁判所への届出印になります。
ここは不動産屋さんが記入方法を押してくれますので、覚える必要はありませんよ。
不動産売買契約における不動産屋さんの責任
不動産売買契約を代理人と行う場合の注意点を見てきました。ここで解説したように、不動産屋さんは取引を問題なく・円滑に行うために、様々な視点で売主さま・買主さまをチェックしなければいけません。
もし、チェックを怠ったり忘れてしまった結果、お客さまへ迷惑をかけ損害が生じてしまえば、不動産屋さんは注意義務違反を問われ、損害賠償請求される可能性があります。
だからこそ、取引の当事者が高齢者の場合には面談していくつかの質問をしますし、本人の意思確認や書類確認も丁寧に行っています。少し失礼に感じられることはわかっていますが、ご協力くださいませ。
最後に…
代理契約はリスクがあります。不動産屋さんの中には、遠方の契約を気軽に郵送で行うことがあるようですけど、これは絶対に止めた方がイイと思います。
「悪い人ばかりじゃない!」
それは、わかります。
でも、もし万が一、
悪い人だったら…どうしますか??
不動産取引は高額です。
不動産屋さんが代わりに損失負担はできませんよね。
不動産屋さん、買主さま、売主さま、それぞれが代理人による契約のリスクを理解し、みんなが安心して取引できるように協力し合えるようになってほしい!そう願っています。
本日はここまでです!
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考記事…
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