高齢者が不動産を売却する時の注意点を解説!
日本は4人に1人が65歳以上の高齢者となる「超高齢社会」に突入しました。2060年の予測では4人に1人が75歳以上になるそうですから、高齢者の不動産売買に関する問題はこれから増加していくと予測されます。
高齢者は不動産を「購入」するよりも「売却」するケースの方が多いかと思いますので、この記事では「不動産売却」についてまとめますね。
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
「高齢者」に関する基礎知識を確認しましょう
日本人の「平均寿命」から見ていきましょう。
2019年7月30日・厚生労働省の発表によると、日本人の平均寿命は83.98歳(女性87.32歳 男性81.25歳)になり最高記録を更新しました。おそらく、今後は人生100年時代に突入していくのでしょう。昭和元年では45歳前後だったそうですから、かなり寿命が延びていますね。
次に、何歳から「高齢者」なのかを考えてみます。
昭和57年に施行された「高齢者の医療の確保に関する法律」では、
65歳~74歳 … 「前期高齢者」
75歳以上 … 「後期高齢者」
と定めていますが、皆さまはどう感じますか?
現代では、若々しく、オシャレに生活しているお年寄りが増えています。平均寿命が延びるだけでなく、健康になっていることを踏まえて考えると、65歳から「高齢者」と言われるのには抵抗があるのではないでしょうか。
そこで、平成29年に提言された基準を見てみましょう。
65歳~74歳 …「准高齢者」
75歳~89歳 …「高齢者」
90歳~ … 「超高齢者」
「高齢者」を75歳以上としていますね。この基準の方が、日本人のお年寄りを適切に表現していて、受け入れられやすいと思います。
さらに、「超高齢社会」という言葉の分け方も見ておきましょう。
総人口に対する65歳以上の割合で呼び方が変わります。
7%以上 … 「高齢化社会」
14%以上 … 「高齢社会」
21%以上 … 「超高齢社会」
よく聞く高齢「化」社会というのは昭和45年あたりのことです。平成7年には「化」が消えて「高齢社会」になり、平成19年には「超」が付いて「超高齢社会」となっています。
長寿になるのは素晴らしいことではありますけど、年齢を重ねるにつれて、若いころのようには判断・行動できなくなります。実際、通常の日常生活・社会生活を営めなくなる「認知症」の患者さんは急激に増加しているようです。
「認知症」・「軽度認知障害」と診断された高齢者は900万人弱。そして、2025年には「認知症」だけで700万人になると予測されていますから、65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症患者になる…ということになります。
平均寿命が延び、認知症患者が増え、核家族化が進んでいることを考えると、マイホームを売却した資金で施設へ入居したり、都心部へ引越をする需要はさらに高まる可能性が高いですよね。
しかし、認知症を患っている高齢者と不動産売買契約を締結することは大きなリスクを伴います。トラブル事例が積み重なり、社会問題化することで、高齢者が所有する不動産の流通性を下げる要因になるかもしれません。
そこで、高齢者の方々が安心して不動産を売却できるように、契約手続き・契約解除・成年後見制度・裁判例などを解説しますので、頑張って勉強していきましょう。
判断能力が低下した高齢者が締結した不動産売買契約を解除する手段
認知症・軽度認知障害を患っている高齢者が不動産売買を行うと、不当に安い金額で売却させられたり、権利を奪われてしまう恐れがあります。
そこで、判断能力が低下している状態にある高齢者を守るために、不動産売買契約を白紙解除する手段が認められています。なんでもかんでも契約解除できるわけではないので、どんな場合に保護されるのかを確認しておきましょう。
全部で6つです。
1. 契約自体が不成立
契約自体が不成立になるケースはあまりないそうですが、所有者に無断で売買契約書を作成し、そこに本人の実印を勝手に押印したような場合が該当します。
2. 意思能力の欠如による無効
「意思能力」というのは、売買契約を行ったら、どんな義務を負い、どんな権利を得るのかを判断できる能力のことで、7歳~10歳程度の判断能力と言われています。酔っぱらっていた場合は意思能力が欠如しますよね…?このような状態で行った契約は無効となります。(改正民法により無効であることが条文化されました。)
なお、裁判所は簡単に「意思無能力だった」と認定しません。なぜなら、無効を主張する行為が行われたのは過去の一時点であり、その時点で意思能力があったかどうかを判断するのが難しいからです。意思能力が一応あると「推定」したうえで、いろんな事情を総合的に考慮して判断します。
認知症と診断されていた場合でも意思無能力とは限りません。この点は注意が必要ですね。
3. 公序良俗違反による無効
「公序良俗」というのは「公の秩序 または 善良の風俗」を略して読んでいます。これは社会的妥当性があるかどうか?ということです。暴利行為や高齢者が一方的に不利な契約は認められません!
例えば、平成21年の大阪高裁判決では、「十分な預貯金を持つ高齢者から、相場よりも明らかに安い価格で不動産を売却させる契約を締結したことは公序良俗に反して無効」だとしました。
4. 錯誤による取消し
錯誤(さくご)というのは勘違いのことです。特に、売買契約における重要な要素に関する勘違いがあった場合には、その売買契約を取消しできます。(民法改正で「無効」が「取消し」になりました。)
例えば、平成10年の横浜地裁の判決では、「宅建業者が高齢者の売主と締結した不動産売買契約が、合理性がないと言えるほど安い金額であったにもかかわらず、売主には、相場よりも安い金額で売却したという認識がなかった事案に対して、売買契約で最も重要な構成要素である金額について勘違いがあったわけだから無効」だとしました。
5. 詐欺を理由とする取消し
高齢者をだまして締結した売買契約は取り消すことができます。当然ですね。
6. 消費者契約法による取消しまたは無効
消費者契約法というのは、「消費者」と「事業者」の間で行う取引について、消費者に不利となる内容で契約していた場合には、取り消したり、無効にできるという法律です。
「消費者」である皆さんが、宅建業者・宅建業者以外の法人・不動産投資などの事業を行っている人と契約する際にはこの法律が適用されます。つまり「消費者同士」の契約では適用されません。
6つ紹介しました。
これで高齢者を保護することはできますけど、全く落ち度がない相手方に迷惑をかけてしまう恐れがありますよね。そこで、次のお話「高齢者の判断能力の確認」が重要になります。
高齢者の判断能力をどうやって確認すればいいのか…?
ゆめ部長が高齢者と不動産売買を行う場合、取引の安全を図るために「高齢者のお客さまに判断能力があるかどうか?」を確認するようにしています。
どのように判断能力の有無を確認するのかを見ていきましょう。(失礼だと感じられるかもしれませんけど、高額な商品である不動産を売買するためですから協力してくださいね。)
成年後見制度を利用しているかを確認する
「成年後見制度」とは、高齢者の方に判断能力がないことがわかっている場合、周りの人が後見人となり、不当な契約から財産を守るための制度です。
この制度を利用しているかどうかを確認する場合、東京法務局(九段下)で「登記事項証明書」を請求します。登記がなければ「登記されていないことの証明書」を受け取れます。この書類は不動産屋さんが委任状を受け取り代理受領できます。
もし、成年後見制度を利用していた場合、不動産を売却するためには家庭裁判所の許可を受けなければならず、許可を受けていないと売買契約が無効になってしまいます!
売主さまと直接面談する
不動産屋さんの社員(できれば2名)で面談します。話をする中で疑わしい感じを受けた場合、担当医・看護師・介護担当者などへの聴き取りも行うべきです。その際に、軽度認知障害の診断がなされているなどの状況を確認できたなら、専門家(司法書士先生・弁護士先生)へ協力を依頼しなければいけません。
知り合いの不動産屋さんから教えてもらったのですが、面談時には会話内容を録音した方がよいそうです。社員2名で確認したとしても、証拠がなければ取引の安全は確保できませんからね。
なお、代理人が委任状と印鑑登録証明書を持ってきてくれたからといって、売主さま本人との直接面談を省略するのはNGです。その委任状へ署名・捺印をした時点で判断能力がなければその委任状が無効ですから、代理人は無権代理人となり、売買契約の効力が否定されてしまいます。特に相続人が複数いる場合は「相続」が「争続」になりますから要注意ですね。
面談時の注意事項
不動産屋さんは取引を成立させなければ報酬を得られませんから、どうしても「問題がない」と言えるように誘導したくなります。この点は十分に注意しなければいけないポイントでしょう。
面談する際には下記の内容を確認すると良いそうです。
■ 生年月日・年齢は?
■ 契約締結前の生活はどんな状況か?
■ 売買対象物件を理解しているか?
■ 契約締結をする目的は何か?
■ 売買金額が妥当だと思っているか?
■ 売買契約の相手との関係は?
■ 売却後はどこに住むのか?
聞くときのポイントは、具体的に回答してもらえるような質問にすることです。「はい」「いいえ」で回答できてしまうと、判断能力を確認するには不十分と言えます。
高齢者との不動産取引にリスクを感じたら成年後見制度を積極的に活用する!
先ほども少し説明しましたけど、不動産取引の当事者になる高齢者に判断能力が十分にあるかどうか不安に感じる場合は「成年後見制度」を積極的に活用するべきです。
成年後見制度には次の3種類があります。
■ 成年被後見人
■ 被保佐人
■ 被補助人
成年被後見人が1番判断能力がなく、
被補助人が1番判断能力が高くなります。
認知症患者の数から考えると、成年後見制度を利用している人は少ないと言えます。今後は認知症患者の数が増えていく中、不動産売却案件も増加していくと考えられますから、成年後見制度を普及させていく必要があるでしょう。
成年後見制度を利用していれば、高齢者の判断能力があるかどうか…という心配が不要になりますから、安心・円滑な不動産売買を実現できるはずです。契約の相手にとっても、不動産屋さんにとっても、大きなメリットだと思いますが、いかがでしょうか?
逆にデメリットもあります。
それは、後見開始の審判が出るまで3ヶ月~4ヶ月かかり、家庭裁判所の許可が下りるまで3週間~4週間かかります。また、家庭裁判所の許可が下りない可能性もありますので、急いで売却して現金化するのは難しいです。なお、費用は10万円~20万円くらいになるようです。
代理人に売買契約を依頼する場合
高齢者が不動産売買を行う場合、代理人に契約の締結・残代金の受領(支払い)を依頼することもできます。
たとえば…
■ 東京の不動産を購入するのに地方から出てくるのが大変
■ 老人ホームに入所している・病院に入院している
■ 足腰が悪いため移動が大変
このような場合、親族の方を代理人とする委任状(代理権授与)を発行し、売買契約を代わりに締結してもらことを検討してください。ただし、売買契約の相手方は代理人との契約に不安を感じますから、不動産屋さんと1度面談しなければいけないことはご了承ください。少し手間はかかりますけど、大きなお金が動く取引ですから、皆さまには納得していただけるかと思います。
なお、不動産屋さんが売買契約の書類や手付金などを持参して契約することもできます。この方法を「持ち回り契約」と言います。興味があれば、次の参考記事を読んでみてください!
参考記事…
上記のケースではなく、次のような場合もあると思います。
■ 判断能力がしっかりしていない(認知症など)
■ 成年後見制度を利用している
このような場合、不動産屋さんへ事前に相談してください。代理人へ依頼する場合であったとしても、次のような手続きが必要になります。
■ 面談+判断能力の確認(動画や写真を撮らせてください)
■ 登記されていないことの証明書取得(成年後見制度の登録)
なぜなら… もし、皆さまが
認知症で判断能力がなかった場合、
成年被後見人でマイホームを売却する場合、
買主さは売買契約を解除・取消しされてしまうリスクがあるからです。
お手数をおかけしてしまうことは大変申し訳なく、失礼にあたることも承知していますが、ご協力のほど、何卒よろしくお願い致します。
参考記事…
弁護士先生から意見を求められた案件
弁護士先生から不動産価値の査定に関して意見を求められたことがあります。
ザックリとした内容は次の通りです。
※ 数字は変更してあります。
・高齢者が100坪を超える土地を所有
・敷地の大部分が計画道路にかかり事業化される見込み
・計画道路が事業化された後に30坪ほど残る
・周辺相場は1坪120万円程度
・約4,000万円で不動産会社に買い取られた
不当に安い金額で売却してしまったとして、裁判で売買契約の無効を争うとのことでした。
金額の妥当性についてゆめ部長の考えは…
計画道路にかからない部分を売却すれば、ちょうど、購入しやすい広さになるため、周辺相場での売却は比較的容易だと思いました。
さらに、計画道路実行後は次のようなメリットがあります。
■ 道路沿いの建物が建て替わり印象が良くなる
■ 歩道が整備されて安心
■ 災害危険度が下がる
■ 用途変更(建蔽率・容積率緩和)されることがある
交通量の増加はあるかと思いますが、
全体的には地価上昇する可能性が高いでしょう。
そうすると、残された土地だけでも、4,500万円前後(1坪あたり150万円)の価値があると考えました。
さらに、用地買収されれば、買収された土地面積に応じて補償金が支払われます。
これらのことを考えれば、約4,000万円での売買契約は不当に安い金額だと断言できる金額です!!
最終的にどうなったかは知りませんけど、おそらく、裁判では勝てるだろう…とのお話は聞きました。
このように、
高齢者 : 売主・原告
不動産会社 : 買主・被告
になっている裁判例はたくさんあるそうです。
「旧耐震基準のマンションだから、大地震が来たら倒壊しちゃいますよ!無価値どころか負債になるかもしれないですよーーー!」のように、ちょっと気になる部分を大げさにして攻めてきますから、皆さまも十分に注意してくださいね。
最後に…
これからの不動産取引はさらに高い専門性が求められるようになりそうです。
記事を書きながら、ネットで記事を検索したり、知り合いの司法書士先生にヒアリングしたり、テキストを読み込んでみたりしましたが、まだ完璧な記事には仕上がっていません。これから勉強を積み重ね、どんどん加筆していきたいと思います。
宅建士の仕事は日々の勉強の積み重ねが欠かせなくなりましたので、引き続き貪欲に学び、Web記事でアウトプットを高速で繰り返していくつもりです。ぜひ、皆さまも一緒に学んでいきましょう!!
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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