「建物状況調査(インスペクション)の説明義務化」仲介現場から見る課題
宅地建物取引業法が一部改正され、2018年4月1日からインスペクション (建物状況調査) の説明が義務化されました。義務化されることになった理由、説明する内容、インスペクションが盛んなアメリカから学べることなどをまとめます。
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
建物状況調査・住宅診断とは…
「建物状況調査」・「住宅診断」どっちも似ている気がしますよね。正直、この記事を書くまで、ゆめ部長も違いが良く分かっていませんでした…。
こうやって日本語を難しくしてしまうから、建物の専門家ではない宅建士が困り、不動産屋取引の現場が混乱していくのだと思います。まぁ、最初からグチっても仕方ありません。この記事は勉強したことをまとめるという目的もありますので、調べながら書き進めていきます。
インスペクションのリーディングカンパニーといえば「さくら事務所」さんなので、そこのWebページを覗いてみたら…
「建物状況調査」:大きな病気なら見つかる健康診断
「住宅診断」:気になる部分や細部まで検査する人間ドック
という分け方になるようです。「建物状況調査」は「住宅診断」に含まれているのですね。では、「インスペクション」という言葉はどうなのでしょうか…
またまた「さくら事務所」さんのWebページによると…
ホームインスペクション(住宅診断)とは、住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、第三者的な立場からまた専門家の見地から、住宅の劣化状況、欠陥の有無、改修すべき箇所やその時期、おおよその費用などを見きわめ、アドバイスを行う専門業務です。
「建物状況調査」も「住宅診断」も「インスペクション」と呼んでよさそうですね。「建物を検査することは全てインスペクションだ!」と書いてあるWebページもありました。
ということで、まとめておくと…
宅建業法で義務化された「建物状況調査」は、「住宅診断」よりも調査範囲が狭いものになるけど、住宅診断と同様に「インスペクション」になる!
勉強を進めたら、加筆していきますね。
宅建業法が改正されることになった理由とは?
日本の中古住宅は、キズや汚れが多い・見えないところに問題があるかもしれない・これからどれくらい使えるかわからない…など、買主さまの心配事が尽きないため、新築住宅と比べて流通量がかなり少ない状況です。
アメリカ・イギリスなどでは、80%~90%が中古住宅の取引になっていますし、古い建物の方が評価される仕組みも出来上がっているそうです。一方、日本は中古住宅の流通量が少なく、取り壊しまでの期間も他国と比べて圧倒的に短いですから、日本人は住宅を持つことで資産を失っていると言えます。
もったいないなぁ…。
日本の木造住宅の寿命は約30年。不動産査定では、建物価値は10年で半分になり、20年~25年で残存価値が10%程度になるものとして計算されることが多いです。四季があり、高温多湿な環境であることも一因だと思われますけど、ちょっと短すぎますよね。
そこで、インスペクション ( 住宅診断 ) を日本の不動産取引の中にも浸透させることで、住宅取得者が建物価値を維持・向上させる意識をもち、良質な中古住宅の流通量を上昇させようと考えたのです。
日本の住宅は、スクラップ&ビルドの「フロー」から、メンテナンス・リノベーションによる「ストック」へと舵を切ることになりました。これが、宅建業法が改正された背景になります。
参考…
説明義務化されたインスペクションとは?
今回の宅建業法改正で説明が義務化される「建物状況調査」では、下記の検査項目に関する 非破壊・目視 による調査結果になります。
■ 構造耐力上主要な部分
■ 雨水の侵入を防止する部分
※ 給排水管路や給排水設備などは調査対象外です。
オプションで調査依頼できることがあります。
目視による非破壊検査になりますから、床下点検口がなければ床下は見ないですし、
点検口を開けても断熱材がビッシリ詰まっていれば奥の方は見ません。劣化箇所の範囲や原因を特定することまでは行わないことになります。
なお、義務化されたのはインスペクションという制度を周知するための説明のみで、インスペクションの実施は義務化されていません。
建物状況調査はいつ・どのように説明されるの?
媒介契約時・売買契約時にわけて見てみます。
1. 媒介契約時…
宅建業者がインスペクション業者をあっせんできるか…?について書面で明示
2. 重要事項説明時(インスペクションを行った場合)…
宅建業者がインスペクションの結果を買主さまへ明示。下記項目を記載した書面を重要事項説明書に添付して説明することになります。
■ 明示した資料の名称
■ 資料作成者(建築士)
■ 資料作成年月日
3. 売買契約時…
建物状況を売主さまと買主さまが相互に確認し、宅建業者がその内容を書面化して双方に交付。下記の文言を売買契約書へ入れます。
「建物状況調査の結果概要は添付資料「---」の通りです。建物状況調査は、建築士がその責任において調査・報告するものであり、宅建業者にはその内容について責任はありません。」
媒介契約時には「あっせん無し」で、重要事項説明時と売買契約時には「インスペクション未実施」と説明するだけで終わっている契約が多いと言えます。この制度はまだこれからのものですから、過度の期待はしすぎないでください。
まぁ…買主さまの反応は「えっ、説明はこれだけですか…?」となりますよね。
中古住宅の流通量が多いアメリカから学ぶ問題点
アメリカでは、不動産会社がインスペクション業者を紹介することで癒着が起こり、売買契約に影響が出そうな調査結果を報告書へ記載しないように圧力をかける…という問題が生じました。
そのため、不動産会社がインスペクション業者を紹介することを禁じている州もありますが、日本の制度では、不動産会社が「あっせんできるかどうか」を説明することになっていますから、あっせんを容認していることになりますね。
「インスペクションの費用を売主さまと買主さまのどちらが負担するのか?」「売主さまの協力を得られるのか?」も考える必要があります。
アメリカでは、不利益な情報を売主さまが隠蔽するリスクがあるため、買主さまが費用を負担してインスペクションを依頼し、売主さまが調査に協力してくれます。
しかし、日本ではインスペクションが浸透していないですし、定期的なメンテナンスを実施している住宅が少ないため、売主さまからインスペクションへの協力を拒否される可能性があります。
費用を買主さまが負担すると言っても、住宅の粗探しをされるのは嫌ですし、問題が発生した場合に費用や責任を負担したくないと考えている人の方が、ゆめ部長の経験上、圧倒的に多いのです。この点は時間をかけて解決していくしかないのだと思います。
ちょっと一言。
インスペクション会社が指摘した箇所について、補修してくれる工務店を紹介することも「あっせん禁止」に該当するそうです。ここで、感じたことなのですが、「あっせん禁止」を盾にして「インスペクションの結果~の可能性があります。」とだけ報告して、「あとは知らない。自分で補修してくれる会社を探して」という姿勢は無責任で大きな問題だと思います。「仲介会社は建物を知らな過ぎる!」と言うのであれば、理想を語るより、依頼者にトラブルが生じさせない柔軟な対応を求めたいです。
調査を実施する人のレベルにかなりの差があることも課題ですから、仲介現場を混乱させることがないように対応してほしいと思います。もちろん、
2021年追記…
仲介現場で働く私たちは建物の勉強を頑張らないといけない!と感じ、「ホームインスペクター試験」を受験して合格しました。実務経験がないので大した知識はありませんけど、コツコツ勉強していきたいと考えています♪
インスペクションに対して怒りを覚えた経験を紹介
ゆめ部長の怒りの体験を1つ紹介します。
インスペクションを行った結果「雨漏りの可能性があります」と報告書に記載されたことがありました。診断を行った担当者さんへ話を聞くと、建築時についた染みが残っているのかもしれないし、少し前の台風で雨風が巻き上げられて吹き込んできたかもしれないし、雨漏りかもしれない。とのことでした。
売主さまが「雨漏りなら責任を持って補修をしてから引渡をしたい!」と申し出てくれましたけど、インスペクションを行った会社からは、工務店の紹介、補修方法や見積もりの提示もできないと言われました。
インスペクション会社と工務店の癒着がアメリカで問題になったとはいえ、住宅の素人に報告書だけ渡し、あとは自分で工務店などを探して補修を依頼してほしいという姿勢は、プロの仕事としてはあまりにも無責任だと感じられました。売主さまも同じ気持ちだったようで、怒っているというよりも呆れているようでした…。
仕方がないので、現場近くに事務所がある雨漏り診断士に見てもらったら、「こんなの雨漏りじゃない。オレに何を補修しろって言うんだよ?」と言って帰ってしまったそうです。
雨漏り診断士には、買主さまのために専門家の診断書を作成してほしいとお願いしましたが、これも断られました。雨漏りの診断や補修は難しいため「雨漏りではない。」と報告書で断言したくないのは理解できますが、これでは、みんなで責任逃れをしているだけですよね。
売主さま・買主さまのどちらも不安が残り、ゆめ部長と大手仲介会社の担当者は混乱させられました。本当に、これでいいと思っているのだろうか…(怒)
「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」へ
民法改正により「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変更され、「売買対象不動産がどのような状態なのか?」について、明確にすることが求められるようになりました。
雨漏り・シロアリ・建物傾きなどがあれば、事前に説明したうえで、売買契約書へ「○○について、売主は契約不適合責任を負わないものとします。」と記載しなければいけません。
もし、「契約不適合責任を負わない」と定めていない事項について問題が見つかれば、売主さまは買主さまに対して、契約不適合責任を負うことになります。
民法が改正される前であれば、「瑕疵担保責任は免責とします。」の文言を入れるだけで売主さまは責任を負わずに済みましたけど、今は、「○○、○○、○○については契約不適合責任を負いません。」と明確に示さなければいけないのです。
おそらく、これからの不動産取引では、インスペクションを行うケースが増加することでしょう。わたしたち不動産屋さんも、怖くて中古の不動産を売買できませんからね。
アメリカのように、専門家が連携して不動産取引を行うシステムを少しでも早く構築してほしい…心からそう願っています。
参考記事…
最後に…
アメリカではインスペクションが根付くのに20年もかかりました。日本では他国の成功事例を学びながら、なるべく短期間で制度を根付かせ、国民の財産が失われないように守っていかなければなりません。
定期的な住宅診断、リフォーム、リノベーションを行い建物価値を維持すれば、流通性を維持でき、中古住宅が資産となるはずです。資産となるのであれば、老後に住宅を売却することができます。また、家族との思い出が詰まったマイホームに住み続けられる「リバースモーゲージ」や「リースバック」などの制度も利用できる可能性が高まるかもしれません。
資産価値を減少させないためにはどうすればよいか…?
マイホームを購入時に、ぜひ、考えてみてください。
用語解説「リバースモーゲージ」…
高齢者が自宅を担保にして、老後の生活費などを一時金または年金形式で借りる貸付制度のことです。資産価値がないと利用できません。
用語解説「リースバック」…
自宅を売却してお金を受け取った後、そのまま買主から自宅を借り受けます。賃料を支払いますが、売却後も自宅に住み続けらえる制度です。この制度も資産価値がないと利用できません。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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