瑕疵担保責任による売買契約の解除を解説!
不動産取引では、売買契約を締結する時点で売主さまが知らなかった欠陥(瑕疵=かし)を、買主さまが引渡を受けた後に見つけてしまうことがあります。わざと伝えなかった…ということもあるでしょうけど、本当に知らなかった…というケースをたくさん見てきました。
不動産取引は高額な商品を取り扱いますし、売買契約時点ではわからないリスクが多くなりがちにもかかわらず、このトラブルを原因として、売買契約を解除できるケースが意外にも限定されています。
そこで、この記事では、後で見つかったトラブルを原因として、売買契約を解除できる場合・できない場合を理解しやすいようにお話してみたいと思います。
修正予定…
民法改正で「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」へ変わりました。(終)
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)とは…?
この記事でお話をするのは「瑕疵担保責任」による「売買契約解除」についてです。そこで、まずは瑕疵担保責任とは何かを確認していきましょう。
「瑕疵担保責任」の読み方は「かしたんぽせきにん」です。
「瑕疵」という言葉は聞きなれないので難しく感じてしまうかもしれませんね。簡単に言うと「キズ」とか「欠陥」という意味になります。もう少し詳しく言うと…「通常、一般的には備わっているのに、本来の機能・品質・性能などが備わっていないこと」です。
瑕疵担保責任というのは、「隠れている」瑕疵があったとき、つまり、売買契約の時点では、売主さま・買主さまのどちらも発見することができない欠陥などが後で見つかった場合、売主さまに責任があるんですよ…という定めになります。
このように売主さまの責任を明確にすることで、買主さまが不動産を安心して購入できるように保護しているわけです。
1つ、どうでもいい話をします…
不動産屋さんの営業マンによくある勘違いとして、「瑕疵」=「隠れた欠陥」と覚えていることがあります。隠れていない欠陥は「瑕疵」じゃないと覚えてしまったのでしょう。
上にも書いた通り「隠れている瑕疵」が見つかった時に売主さまが責任を負うということですから、ちょっとだけ違いますよね。
話を戻します。
ここからは民法の原則を確認しながら、実際にゆめ部長が利用している「重要事項説明書」・「売買契約書」の内容を使って解説していきます。
今回は「契約の解除」に絞った内容になりますから、瑕疵担保責任の詳細は、後日執筆する予定の記事を確認してください!そこでは、複雑に関係しあっているため、みんなわからなくなっている「民法・商法・宅建業法・品確法・消費者契約法」の定めも記載する予定です。
民法が定める瑕疵担保責任を確認しよう!
民法570条で、売買の目的物(不動産)に隠れた瑕疵があるときは、売主さまが瑕疵担保責任を負うのが原則だと定められています。
では、どのような責任を負うのでしょうか…?
隠れた瑕疵で買主さまに損害がある場合 ➡ 損害賠償請求
隠れた瑕疵で契約の目的を達成できない場合 ➡ 契約解除
不動産取引の実務では、民法の定めとは異なり、損害賠償を請求せずに「瑕疵の修復請求」することもあります。重要事項説明書の文言を抜粋すると…
「買主は、売主に対し、前項の瑕疵により生じた損害の賠償 または 瑕疵の修復の請求をすることができます。」
なお、新民法成立で瑕疵担保責任はなくなり「契約不適合責任」が問われることになります。この点はまた別の記事で執筆してリンクを貼ります。しばらくお待ちください!
瑕疵担保責任に関する重要事項説明書・売買契約書の記載内容
この記事では「契約解除」についてまとめていますので、「損害賠償請求」・「瑕疵の修復請求」については割愛しますね。
不動産の売買契約で契約解除できるかどうか…?実はこれ、結構わかりづらくなっています。実際、ゆめ部長も重要事項説明では苦手な箇所でしたし、不動産屋さんの多くは全く理解していない可能性が高い部分です。
トラブルになってしまったら契約書を見ながら対処する…というのがほとんどの不動産屋さんの対応法ではないかと思います。
宅建士が「理解していない」ということは…重要事項説明時に買主さまが納得できるように説明できていなかったということです。それにもかかわらず、トラブルが生じた際には、「契約書類に書いてあるじゃないですかーー」「重要事項として説明してありますよーー」と主張してきます。
こんな対応…納得できませんよね。
いや、許せませんよね。
だから、ゆめ部長のWebページで一緒に勉強しておきましょう!
というわけで、まとめていきますよ。
不動産売買契約を解除できるかどうかは…
■ 契約する物件種別は何か?
・マンション
・戸建
・土地
■ 買主さまと売主さまは誰か?
・消費者同士の契約
・消費者と事業者の契約
・消費者と宅建業者の契約
この2つを確認します。
用語がわかりづらいと思うので、簡単に解説しますね。
「消費者」:個人のお客さま
「事業者」:大家さん・法人
「宅建業者」:不動産屋さん
「消費者」は不動産のプロではないですし、契約自体に慣れていない可能性が高いので1番保護されるべきです。
「事業者」は不動産のプロではなくても、契約などにはある程度慣れている可能性が高いです。大家さんなら不動産の知識もけっこうあるでしょう。というわけで、消費者ほどは守られませんけど、宅建業者よりは守られます。
「宅建業者」は不動産のプロですから、「消費者」「事業者」が宅建業者と契約する場合には規制を受ける対象になります。
では、順番に見ていきましょう。
【1】消費者同士の売買契約
中古マンション・中古戸建て・土地などを、個人の売主さまが、個人の買主さまへ売却するような場合です。この場合、民法の定めが適用されます。
一戸建て :3ヶ月解除できる
土 地 :3ヶ月解除できる
マンション:解除できない
民法の規定では、瑕疵担保責任を追及できるのは「瑕疵を発見してから1年」であり、最高裁判決では「引渡後10年で消滅時効にかかる」とされています。
しかし、消費者同士の不動産売買契約では、瑕疵担保責任の期間を「引渡から3ヶ月」とするのが一般的です。「少し期間が短かすぎるのでは…?」という意見もありますが、すぐに変更されるような動きはありません。
なお、消費者同士の不動産売買契約では、瑕疵担保責任を「免責」「1年」「2年」とすることも自由です。とは言え、瑕疵担保責任「免責」では買主さまが嫌がりますし、「1年」「2年」では売主さまが「保証期間が長すぎる!」と文句を言うでしょうね。
だからこそ、「インスペクション(住宅診断)」や「瑕疵保険」への加入を検討するべきだと言えますが、この点は別の記事で…。
ここまでは瑕疵担保責任を理由として売買契約を解除できる「一戸建て」と「土地」のお話でした。次は、瑕疵担保責任を理由として売買契約を解除できない「マンション」について解説しておきます。
マンションで瑕疵担保責任の対象になるのは専有部分(ex.201号室の室内だけ)だけであり、共用部分(エントランス・廊下・エレベーターなど)や土地は対象外となっています。専有部分だけであれば補修も可能なはずですから、売買契約を解除することまでは認めていないのでしょうね。
ついでにもう1つ知識を紹介します。
大手「FRK」の売買契約書では、中古戸建の売買契約を解除できるのは「土地に瑕疵がある場合」に限定されていますが、ゆめ部長が利用している「全日」の書式では、土地だけでなく建物の瑕疵でも契約解除できるように定められています。
「FRK」「全日」「全宅」という不動産屋さんが加盟している団体によって書式が異なっていますし、その理由を解説してくれる機会も資料もありませんから、現場がよくわかっていないのは仕方がないことなのかもしれません…。
【2】事業者と消費者との契約
ワンルーム大家さんをやっている個人や法人と、個人が契約するような場合です。この場合は、消費者契約法の定めが適用されます。
一戸建て :1年解除できる
土 地 :1年解除できる
マンション:1年解除できる
参考記事…
【3】宅建業者と消費者との契約
不動産屋さんから土地・戸建て・マンションを購入する場合です。この場合は、民法よりも、消費者契約法よりも、宅建業法(宅地建物取引業法)が最優先されます。
不動産屋さんはお客さまを騙そうとするかもしれないので、厳しく規制しよう!ということです。(信用されていないと感じて悲しいな…。)
一戸建て :2年解除できる
土 地 :2年解除できる
マンション:2年解除できる
新築一戸建て・新築マンション・リノベーション済みの「一戸建てとマンション」は宅建業者が売主の物件になるはずですから、2年間は瑕疵担保責任による売買契約の解除が認められることになります。
2年間も「売買契約を解除できる」って…宅建業者側からすると、かなり厳しいルールになりますよね。それにもかかわらず「床鳴りがするから」とか「水漏れがするから」という理由だけで売買契約を解除できたら困ってしまいますよね。
では、どんな条件を満たしているなら、売買契約を解除できるのか…。そこを一緒に確認していきましょう。
不動産の売買契約を解除できる条件
どのような場合に売買契約を解除できるのか…?
条件を確認しておきましょう。
条件1…
売買対象の不動産に「隠れた瑕疵」があること。
「隠れた」と言えるかどうか…は、通常の注意によって発見できるか?で判断します。例えば、中古戸建のシロアリは、床をはがしてみないとわからない可能性が高いですよね。このような瑕疵が「隠れた瑕疵」に該当します。
シロアリがいたことについて、本当に知らなかっただけであり、隠すつもりがなかった…という事情があっても売主さまは責任を負います。また、定期的に防蟻(ぼうぎ)処理をしていたから責任は果たしていた!ということも主張できません。
なお、屋根裏に多数のコウモリが棲息していたことが「隠れた瑕疵」に該当するとして、損害賠償請求が認められた判例もあります!
もう1つ注意点があります。
「隠れた」瑕疵が対象ですから、買主さまが売買契約時点で知っていた場合は「既知」となり、瑕疵担保責任を追及できなくなります。
困った事例紹介…
以前、リノベーション済みの中古戸建を検討していた時の話です。
買主さまから「インスペクションをしてから購入するかを判断したい。」との申し出があり、売主の不動産会社に承諾をもらってインスペクションを実施したら…なんと!大手ハウスメーカー施工にもかかわらず、建築時の工事ミスが発覚しました。
幸いなことに補修可能とのことでしたが、売主の不動産会社からこんなことを言われてしまいました…。
「売買契約前にインスペクションを実施して問題点を把握できたわけでしょ。瑕疵が明確になって隠れていないわけだから、瑕疵担保責任は負わないよ!」
まぁ、確かに、隠れていない状態になったわけだから、瑕疵担保責任の問題ではないですよね…。でも、大事なのはそこじゃないですよね。そんな主張をする前に、瑕疵物件であることを調べてくれたのだから、補修を約束してくれたり、値引きに応じる提案をするべきだったと思います。
「インスペクションなんて余計なことをしやがって!!」そんな考えがにじみ出る対応が悲しかったです。
条件2…
「隠れた瑕疵」によって売買契約の目的を達成できないこと。
人によって瑕疵による影響は異なるものです。そのため、「その不動産を購入した目的を果たすことができるかどうか…?」を判断基準にしているようです。
裁判例を見ていると、土壌汚染・軟弱地盤・自殺や事件(心理的瑕疵)が見つかった場合「売買契約の目的を達成できない」とは判断せず、「売買代金の○○%を損害賠償として支払いなさい。」という判決が多いようです。
簡単には売買契約の解除を認めないようですから、この点は注意が必要でしょう。
最後に…
売買契約時点では気が付かなかった「隠れた瑕疵」が見つかった場合、買主さまの心情的には「こんなの聞いていないぞ!契約解除だ!!」と言いたくなる気持ちはわかります。
しかし…この記事で説明したように、瑕疵担保責任による契約解除を求めるのは、実はかなり難しいことなのです。
こうやって最後まで読んでもらえると、トラブルになる前にある程度の知識を学んでおくことの大切さを実感できるのではないでしょうか?「この記事が面白かった!」と思ったら、他の記事もどんどん読んでみてくださいね。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
参考記事…
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