不動産売買契約はいつ成立するのか|契約直前のキャンセルで損害賠償?
不動産の売買契約はいつ成立すると思いますか…?「購入申込の時」「売却承諾した時」「売買契約書の締結をした時」…さぁ、どのタイミングでしょうか。この記事では民法の原則、宅建業法の取り扱い、判例、実務の慣習などを見ながら解説します!
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
個人間の取引は民法適用!不動産売買にも民法をそのまま適用していいの?
民法第555条では「売買契約の要件と効果」について定めています。まず条文を見てみましょう!
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
売買契約の成立要件は、「買います!」という申込と、「売ります!」という承諾で意思表示が合致することです。書面の作成は不要で口約束だけでも成立してしまいます。
しかし、不動産取引に民法の条文をそのまま適用するのは妥当ではありません。なぜなら… 不動産は高額な商品であり、頻繁に取引が行われるものではないため、慎重に取引が行われることを誰もが期待しているからです。
契約金額・引渡時期・瑕疵担保責任・残置物など、売買契約時に取り決めるべき事項の交渉には時間が必要ですから、「買うよ!」「じゃあ売るね。」と約束した時点で契約を成立させるわけにはいきませんよね。
不動産取引の実務ではどうなっているのか…?
売買契約の成立に関して、ゆめ部長が普段の仕事で大事にしていることは次の2つになります。
■ 売買契約書への署名・捺印
■ 手付金の授受
「全日」・「全宅」・「FRK」などの協会が提供している契約書類を使っていれば、売買金額・支払時期・所有権移転登記申請の時期・引渡時期・契約の解除・手付金の取り扱いなど、売主さまと買主さまが確認しておくべき基本事項が網羅されています。
そのため、「売買契約書への署名・捺印」+「手付金の授受」があり、この契約書類を使って売買契約を締結しているのであれば、売主さま・買主さまのどちらも「いつ契約が成立したんだろう…?」なんて疑問を抱くことがありません。
しっかりした不動産屋さんを選び、順を追って売買契約を締結すれば、「売買契約が有効に成立しているのか!?」なんて問題は発生しないはずです。
判例・弁護士先生の考え方・宅建士テキストの記載など
東京地裁・平成21年2月19日の判例では、手付金の授受があったかどうかを売買契約成立のメルクマール(指標)としています。
売買契約時に手付金の授受があれば、買主さまは一方的な都合であっても、手付金を放棄して売買契約を解除することができます。不動産取引は慎重に行われるべきものですから、手付解除ができない状況(手付金の授受なし)で契約してしまうのは好ましくないわけです。
弁護士先生が執筆したテキストやWebページを読んでみました。その中に書かれていたのは…
「正式な売買契約書を作成した」または「相当額の手付金授受があった」場合には、売買契約が有効に成立していたと判断される傾向にあるそうです。
なんで「または」なんでしょう…?理由がわかったら追記しますね。
勉強したいならこのWebページがオススメ… みずほ中央法律事務所
宅建士証の更新時にもらうテキストには次のようなことが書かれていました。
契約成立の時期は、当事者の意思も斟酌(しんしゃく)しながら総合的に判断するものであり、必ずしも売買契約書の作成・署名捺印が必要とは言えない。
不動産屋さんが仲介をしていれば、宅建業法が適用され、重要事項を説明し、売買契約書を交付しなければいけませんから、総合的に判断する必要はなさそうです。このテキストで書かれていることは、トラブルになって争い事が生じた時には、売買契約書がなくても「売買契約が成立している」と判断することがあるんだよ、ということだと思います。
参考記事…
不動産購入申込書・不動産売渡承諾書の授受で契約は成立するか…?
不動産取引の実務では、購入の意思表示は「不動産購入申込書」を使います。それに対して、売主さまが売却を承諾する時は「不動産売渡承諾書」を発行することがあります。
まぁ、売渡承諾書をもらうことはあまりないんですけどね。
この書類の授受が行われた時点で、「購入します!」「売り渡します!」と双方の意思が合致しているわけですから、売買契約が成立したと考えるお客さまもいるかと思います。
しかし、大阪高裁・平成2年4月26日の判決では、これを否定しています。
その理由は…
不動産購入申込書は、買主さまと売主さまが直接会って交渉することなく発行される書類になります。そのため、この書類に記載された条件で購入する「希望」があることを売主さまへ伝えるだけで、必ず購入することを約束するものではありません。
不動産実務では、不動産購入申込書に基づいて交渉が行われ、条件の合意がなされ、そこから初めて売買契約成立とするのが一般的です。売主さまが申込書の内容を承諾したことだけでは、契約が成立することはありません。
なお、不動産購入申込書・不動産売渡承諾書は通常ノーペナルティーでキャンセルすることができます。しかし、売買契約に向けて双方が真剣に交渉している場合は、ノーペナルティーというわけにはいかない場合があります。
それが、次の話。
売買契約締結前であれば自由にキャンセルできると考えるのは間違い!
不動産取引の仕事に長く携わっていますが、売買契約締結前であれば、ノーペナルティーで契約をキャンセルできるものだと考えていました。しかし、この記事をまとめるために調べていると、必ずしも、ノーペナルティーにはならないようです!
調べた内容をまとめてみます。
ポイントは「正当な理由がないにもかかわらず、売買契約の締結を直前で拒否した場合は、相手方への損害賠償責任が生じる」ということです。
売買契約締結に向けて、売主さまと買主さまは本気で交渉に挑み、悩みに悩んだすえに、「買うぞ!」「売るぞ!」と決心するわけです。そこに至るまでには、時間・労力・費用だってかかりますよね。
それにもかかわらず、一方的な都合で「やっぱ、や~めた!」なんてことになれば、誠実な対応をした相手がカワイソウです!
だから、不動産という高額商品の契約交渉に入っているのであれば、信義則(しんぎそく・「信義誠実の原則」の略)上、相手に対して「配慮義務」「説明義務」「誠実交渉義務」などを負い、違反したら、不法行為として損害賠償責任を負うことになります。
「契約締結上の過失」「契約締結準備段階における過失」と呼ぶようです。
ただし、正当な理由がある場合や、やむを得ない事情がある場合なら話は別でしょう。これは「信義誠実」に反したことに対する損害賠償ですからね。
なお、売買契約の当日に重要事項説明を受け、「購入を見合わせよう。」と判断することには正当性が認められます。そもそも、重要事項説明というものは、契約するかどうかの判断材料を提供するものだからです。
これはアウトだよ!と思うのは…
複数の物件へ同時に価格交渉を行い、交渉が大きく通った物件を抑えにしておき、結局、他の物件を購入したという場合など。
最近はこういう人が増えて本気でイヤです。
自分勝手で不誠実の塊!
アウトだと言う根拠を見つけましたから、今後は遠慮なく、バッサリ切り捨てることにします!
最後に…
「売買契約の成立時期」に関する記事がこれだけのボリュームになるのは、明確な定めがなくトラブルになりやすいからです。しっかりとした不動産屋さんで売買契約を締結していれば「いつ成立したのか?」なんて問題になることの方が少ないでしょう。
もしトラブルに巻き込まれてしまったのであれば、迷わず弁護士先生に相談してください。専門家のサポートで結論は変わりますから、いい加減なネット情報を信用したらダメですよ。ググってみましたら、ホントいい加減な回答がたくさんありました…。
不動産取引は難しいですけど、マジメな不動産屋さんにサポートしてもらえれば心配いりません。相性の良い不動産屋さんに巡り合えるように祈っています!
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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