不動産売買契約の「手付解除」を解説!
売買契約を無事に終えられたとしても、やむを得ない事情で購入を断念しなければいけなかったり、自己都合で「やっぱり契約をキャンセルしたい…」と思うこともあるでしょう。このような事態に備えて、売買契約書には「手付解除」に関する規定が定められていますので、宅建マイスターがわかりやすく解説したいと思います。
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
不動産売買契約の「手付解除」ってなに…?
「手付解除」というのは、売買契約時に授受する手付金の損失だけを覚悟すれば、一方的な都合で売買契約を解除できるという取り決めのことです。
売主さまが「やっぱ売りたくないんだよね…」とか、買主さまが「もっと良い物件が見つかったからキャンセルしてそっちを買います!」という、ワガママとも思える理由で解除することができてしまいます。
お互いに解除できますから、どっちが有利・不利ということではありません。
手付解除は…
買主さまが「手付金放棄」
売主さまは「手付金倍返し」
によって行います。
手付金の倍返しというのは、買主さまから受領した手付金を返還すると同時に、同額のお金を「ゴメンナサイ!」と支払うことです。
ex)手付金が200万円なら…
買主さまは200万円を放棄
売主さまは400万円(200万円の返却とゴメンナサイ料200万円)
を支払うわけですね。
参考記事…
不動産売買契約書の「手付解除」を確認しましょう!
手付解除の定めは、売主さまが、
不動産会社(宅建業者)なのか
不動産会社(宅建業者)ではないのか
で結論が変わってきます。
【1】「宅建業者」が売主さまの場合
売買契約書の内容を書き出してみます。
売主および買主は、その相手方が売買契約の履行に着手するまでは、互いに書面により通知し、買主は、売主に対し、手付金を放棄して、売主は、買主に対し、手付金等受領済みの金員を無利息にて返還し、かつ手付金と同額の金員を買主に支払うことにより、売買契約を解除することができます。
「契約の相手方が履行に着手するまで」は、手付金を放棄すれば契約を解除できると記載されていますけど、具体的な期日が記載されていないのでわかりづらいですね。
なぜ、こんな曖昧な定めになっているのかというと…
不動産会社から買主さま(消費者)を保護するためです。
つまり、この規定は買主さまを有利にするためのものになります。都庁に聞いた経験では、消費者保護を重視して引渡の直前まで認められることになるようです。
もう少し具体的に見てみましょう!
昭和40年の最高裁・判例では…
「履行の着手」とは「客観的に外部から認識できるような形で、契約の履行行為の一部をなしたこと、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をしたこと」と解釈されています。(判例の書き方は難しいですね~)
つまり、履行に着手したと判断される可能性が高いのは…
■ 建売住宅を引き渡した(登記移転時)
■ 買主さまの希望に応じて土地を分けて登記をした
■ 売主さまが引渡・登記申請手続きの準備後、支払いを督促した
■ 売主さまが他人の不動産を取得して登記をした(他人物売買)
■ 買主さまが代金を用意して、売主さまに引渡を催告した
■ 買主さまが内金・中間金を支払った
■ 買主さまが家具家電を購入したり引越業者と契約した
微妙なものもあるようですので、売主が不動産会社なら都庁や弁護士先生、売主が個人なら弁護士先生へ相談することをお勧めします。違約解除で大きなペナルティーを支払うのはなく、手付解除で済むケースもありますから、困ったら迷わず専門家へ相談するようにしてくださいね。
逆に、履行に着手したと言えないのは…
引き渡しや代金を支払うために「準備」しただけだと「履行の着手」には該当しないと考えられています。つまり、住宅ローンの本申し込みをしても履行を着手したことにはなりません!
参考知識を2つ紹介します
1つ目…
民法の条文には「相手方」ではなく「当事者の一方」と書かれていますが、判例に従い条文の文言が「相手方」へ改正される予定です。
2つ目…
相手方が履行に着手したら解除できないわけですから、自分が着手しているだけなら解除することができます。
ちょっと細かい話でした。
なお、履行の着手をした旨の証拠を残すために、内容証明郵便等で催告した方が良いそうですよ。
【2】宅建業者ではない 「個人・法人」が売主さまの場合
こちらも、売買契約の内容を書き出します。
1. 売主および買主は、上記手付解除期日までであれば、その相手方の売買契約の履行の着手の有無にかかわらず、互いにその相手方に書面により通知して、売買契約を解除することができます。
2. 売主が前項により売買契約を解除するときは、売主は買主に対し、手付金等受領済みの金員を無利息にて返還し、かつ手付金と同額の金員を支払わなければなりません。買主が前項により売買契約を解除するときは、買主は売主に対し、支払済の手付金を放棄します。
今度は「上記手付解除期日まで」ということで、具体的な日程を決めていますね。ここが大きく異なる点です。
通常、売買契約~引渡日の真ん中あたりを手付解除期日に定めることが多いです。この期日に関しては具体的な規定はありませんので、2週間程度とすることもあります。しかし、不動産屋さんの「解除されたくない…」という都合で、短期間で設定するのは良くありません。
少し冷静になる時間を持たせるように期限を設定するべきでしょう。
手付解除期日を過ぎると違約解除になる!
宅建業者ではない「個人または法人」が売主さまになる場合は、手付解除期日を過ぎたとき、宅建業者が売主になる場合は、契約の相手が履行に着手したときは、手付解除ができなくなります。
手付解除ができなくなると、次は「違約解除」することになってしまうので注意が必要です。違約解除は、売買代金の「10%」または「20%」で定めていますから、ペナルティーがすごく大きくなってしまうのです!
ちなみに、大手仲介会社は「10%」で契約していますので、ゆめ部長も「10%」で契約することにしています。
多くの不動産屋さんが「20%」にしたがる理由は、ペナルティーを大きくすることで売買契約の解除をさせたくないからです。解除されてしまえば、仲介手数料を満額もらえない可能性があるため、せっかく売買契約まで終えているのであれば、なんとしてでも残代金決済(=引渡)まで完了させたいわけですね。
しかし、都庁に相談すれば「20%」は多いと言われてしまいます。不動産は高額な取引になりますから、やむを得ない事情が発生した時のために「10%」にしておくのが妥当でしょう。
意外と皆さま考えが甘いんですけど、自分が被害者になることばかりを気にしていますが、加害者になることも十分に考えられることをお忘れなく!「20%」の違約金を支払うのは大変ですから気を付けてください!
具体例を入れておきます…
皆さまは物件価格5,000万円のマンションを手付金300万円で購入する売買契約を締結しました。売主さまは宅建業者ではない個人の方で、手付解除期日を11月10日として契約しました。ところが、やむを得ない事情があり、売買契約の解除をすることにしたとしましょう。
このとき、負担するべき金額はいくらになるでしょうか?
簡単ですね。
11月10日までに解除する場合…
300万円を放棄
11月11日以降に解除する場合…
違約金10%なら5,000万円×10%=500万円
既に300万円支払い済みなので追加で250万円支払い
違約金20%なら5,000万円×20%=1,000万円
既に300万円支払い済みなので追加で700万円支払い
外資系企業で突然解雇された事例…
お客さま思いの先輩が対応した事例を紹介します。
お客さまが購入したマンションは7,000万円。手付金は300万円で手付解除期日は11月20日(実際とは異なります。)でした。引渡日が11月30日で住宅ローンの本審査は11月10日に内定していました。
11月10日…住宅ローンの本審査が内定
11月20日…手付解除期日
11月30日…引渡期日
あとは引き渡しを受けるだけ…という状況だったのに、突如、「緊急事態で契約をキャンセルしなければいけなくなりました」と買主さまから連絡がありました。先輩が夜にご自宅へ訪問して話を聞くと、外資系企業に勤務しているご主人が突然解雇されてしまい、住宅ローンの融資を受けることができなくなってしまったのでした。
確かに、結構な人数がまとめて解雇されることになった…というニュースを前日に見ましたから、事実だったのだと思います。
契約を解除したいと言っても、手付解除期日を過ぎていますし、売主さまは既に転居している状況でした。そうすると違約金10%(追加で400万円)を支払って解除するしかありません…。
7,000万円×10%-300万円=400万円
そこで!お客さまと真剣に向き合う先輩は、相手側の不動産屋さんに事情を説明しに行き、やむを得ない事情になるため、違約解除はお許しいただきたいとお願いをしました。丁重にお詫びをして事情を正直にお話したことが功を奏したのでしょう。手付金300万円のうち、200万円を返却しての契約解除に売主さまが応じてくれたのです!
違約解除は当事者の合意になりますから、必ずしも違約金を支払っての解約になるわけではないそうですが、売主さまへの対応がマズければ、違約金を請求される可能性の方が高いでしょう。
結局は人と人とのやり取りです。
困った時のためにも、感じ良く対応することをお勧めしたいと思います。
手付解除で得たお金は確定申告!
手付解除や違約解除などで、手付金・違約金を受領したら…この利益は「所得」になります!つまり、残念ながら課税対象になるということです。
所得の種類は「一時所得」です。計算式は次の通り。
(収入-50万円)×1/2
1年間の給与所得などに上記の計算式で算出した所得を合算します。日本の所得税・住民税は超過累進税率ですから、所得が上がると、まとめて税率も上がりますので要注意です!
【注意!】
確定申告を意図的に行わない人がたくさんいるようですけど、それは脱税になりますからね。バレたら大変な金額を収めることになるかもしれませんから、絶対に確定申告しておきましょう。
参考記事…
最後に…
契約書類をしっかり理解していれば、「手付解除」になるのか、「違約解除」になるのかくらいは簡単に判断できるものですが、ネットの間違った情報や、不動産屋さんのウソ情報のせいで、悩んでいる人がたくさんいるようです。(ネットで検索したらたくさんヒットしました…。)
ゆめ部長の感覚ですけど、残念ながら、不動産屋さんは契約書類をしっかり理解していません。そのため、お客さまである皆さまが、自己防衛のために売買契約に関する最低限の知識を身に付けておく必要があると考えています。
大変だとは思いますけど、このWebページを通して、ゆめ部長と一緒に不動産取引に関する勉強を進めていきましょう!
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
参考記事…
“不動産の「悩み・不安・怒り」を解消するぞー✨ のお役立ち情報をツイート ✅ホンネで語るよ ✅業界の裏側…コッソリ教えるよ ✅役立つ知識を集めて発信するよ ✅さんへ優しく解説するね ✅ガンバル不動産屋さ…
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