ムダに厚い不動産の査定書は全く意味がない!
不動産を売却することになり、不動産屋さんに査定依頼すると、たくさんの査定書が送られてくるかと思います。厚い査定書もあれば、A4の紙1枚にまとめられた簡単なものまでありますから、どの査定書を信じたらいいのかわからなくなるはずです。
そこで、不動産屋さんが何を考えて査定書を作成しているのか?そんな仕事の裏側を交えながら、不動産の査定書について解説します。
ブログ執筆:上級宅建士「ゆめ部長」
日本人が大好きな「分厚い不動産の査定書」はハッキリ言って意味がない!
たくさんの不動産査定書を並べて比較したら、皆さんはどの査定書を信じますか?
おそらく、「難しい計算式が並んでいる読む気にすらならない査定書」や「ムダに厚い査定書」の金額を信じるのではないでしょうか?書かれている内容はわからないし、資料が多すぎて読み込むこともしないはずなのに…。
査定書に厚みがあると権威的で信用できそうな気がしてしまうは仕方ありませんけど、「それは間違った選択です!」と、ここでハッキリ断言しておきます!
売却する不動産が、居住用の一戸建てやファミリータイプのマンション一室などであれば、そんなに難しいデータなんて必要ありません。つまり、ムダに厚みのある査定書に意味なんてないのです。
この記事を読み終わると、業界の裏側も知ることができますから、ゆめ部長の考えを理解してもらえると思います。少し長くなりますけど、最後までお付き合いください!
厚みのある不動産査定書の中身はどうなっているの…?
大手が作成した30枚の不動産査定書の中身をのぞいてみましょう。
■ ごあいさつ
■ 査定に関する簡単な説明
■ 不動産売却の流れ
■ 査定物件の概要
■ 地図
■ 路線価
■ 成約事例と販売物件の図面
■ 査定金額計算 …難しいデータはココで出てきます。
■ 査定額と売出提案価格
■ サービス内容の紹介
■ 謄本、公図、測量図などの法務局資料
■ ハザードマップなど
30枚の書類を綴じた不動産査定書を見ると、「豪勢な感じを演出するためにムリヤリ書類を挟み込んだでしょ!?」と思うのはゆめ部長だけなのかな…?
ゆめ部長なら、不要な資料を排除してわかりやすい査定書を作成することが本当のサービスだと思いますが、いかがでしょうか…?
ちなみに、査定金額が最後の方に書かれている理由は…「お客さまが1番気になっている金額を先に伝えると、その後の説明に興味がなくなって話を聞いてくれなくなるから」だそうです。これは、大手仲介会社に勤務していた時の店長に教わりました。
ゆめ部長はそんなこと気にせず、最初から査定金額を“ドーン”と書いています。金額 ⇒ 根拠と資料 ⇒ 金額という順番であれば、金額が気になって話を聞いてくれないことも減るからです。
もったいぶる営業手法は好みではありませんし、結論を先延ばしにされるのはストレスになると思っています。
不動産査定システムで算出した金額はズレすぎる。実は査定額をいじっている!
査定するために集めたデータを「不動産査定システム」に打ち込むと、実はメチャクチャな金額が出てきてしまい、そのままではお客さまに提示できないケースがほとんどです。
本当に驚くほど金額がズレますから、不動産査定システムで算出された査定金額を加工しなければいけません。事前にお客さまへ提示する金額を考えておき、この金額に査定システムの金額を合わせていくわけです。
具体的には、比較対象不動産の「評点」を上げたり下げたり、「〇〇率」という項目をイジって調整したりします。「〇〇率」という項目が入っている査定書が多いので、1度チェックしてみてください。
比較対象不動産の「評点」や「〇〇率」を営業スタッフの主観で決められるシステムでは、不動産屋さんのオジサンが「おれの勘はあたるんだ!」と言っているのと何も変わりません。
ちなみに、不動産流通推進センター の「既存住宅価格査定マニュアル」では、「市場調整率」が-15%~+10%で入力できます。5,000万円の物件なら、最大で4,250万円~5,500万円まで担当者の主観でイジれることになってしまうのですから怖いことです。
ゆめ部長が大手で勤務していた店舗では、さすがに「経験と勘」だけでは心許なかったのか、査定依頼不動産の資料を営業全員にまわし、それぞれが「成約価格帯」と絶対に決まるであろう「決まり値」を書くようにしていました。
この数字を参考にして、担当者が査定金額を決めるのです。
地元密着の大手でしたから、査定システムのように大きく外すことはありませんでしたけど、結局、経験と勘に頼るしかないのかな…と思いますね。
「〇〇調整率」は、「流通性比率」・「市場調整率」・「価格調整率」・「部屋別調整率」など、査定書によって名称が異なります。
査定システムで算出された金額を自分で決めた金額に合わるために、調整率を110%と書いてみたものの、根拠が全くないため、お客さまから「なぜこの数字なのですか?」と質問されたときに「数字はシステムで自動的に決まります。」と答えるしかありませんでした…。
「この査定書に意味なんてないよな…」と悩み続けていたことを思い出します。
不動産査定システムの計算式にあてはめる数字 (評点) を自分で決めるのはムリ!
不動産査定システムでは、査定不動産・成約事例・周辺の成約事例・販売中の不動産などに評点を付けて比較するのですが、この評点を営業スタッフが決めなければならないため、正確性を担保できません。
なぜなら、成約事例として比較する不動産を自分で見たことがありませんから、陽当りが良かったのか、地型が整形地か旗型地かもわからないのです。わかるのは駅距離・築年数・面積などのデータに限定されてしまいます。
具体的に中古戸建の査定で説明してみましょう。土地と建物を分けて計算します。
土地の査定方法
土地の計算式…
成約事例の坪単価 × (所有物件の評点 / 成約事例の評点) × 面積(坪)
(査定書によって計算式は異なります)
ちょっとわかりづらいですね。最初に簡単な具体例をいれておきます。
■ 成約事例の坪単価(1坪=約3.3平米)が@100万円
■ 成約事例の評点が100点
■ 査定不動産の評点が120点
100点の不動産が1坪あたり@100万円で成約したなら…
120点の査定物件はいくらで売れるのかな?
成約事例1点あたりの1坪単価は…
100万円÷100点=1万円
査定不動産の評点は120点だから1坪単価は…
1万円×120点=120万円
土地が30坪なら3,600万円
土地が50坪なら6,000万円
こうやってみると簡単ですね!具体例はここまで。
所有物件の評点は、現地を見に行けばある程度正確に付けられますが、成約事例の評点はどうでしょうか…?
成約事例は個人情報の問題もあり、正確な場所の特定をできない場合がほとんどのため、周辺環境・日照や通風・前面道路の幅員や種類・地型・隣地との高低差や高圧線の有無など、点数を付けることができない項目がたくさん出てきてしまいます。
それにもかかわらず、ムリヤリ評点を付けて査定システムに入力するわけですから妥当な数字を導き出せるわけがないのです。
安い金額で不動産売却依頼を取りたければ、査定不動産の評点を下げて成約事例の評点をあげれば簡単に金額を操作できてしまいますね。
さらに言うと、現地を特定できても点数付けは営業の感覚に頼らざるを得ません。
例えば、「嫌悪施設・危険施設」なしは評点0、ありは-10、影響大は-20とあります。0 ~ -20の間で担当者が選ぶのですが、ゴミ屋敷・お墓・火葬場・暴力団事務所・幼稚園などをどれくらい嫌がるかは人によってだいぶ変わるものですから、この部分もハッキリしないと言えます。
また、不整形地の場合は最大で-30となっていますが、プラン入れがうまい設計士であればー30を-15にできるかもしれません。
だんだん、査定金額の計算式にあまり意味ないことがわかってきましたね。
建物の査定方法
建物の計算式…
標準単価 × 品等格差率 × 規模修正率 × 原価率 × メンテナンス補正率 × 延床面積
(もっと細かい計算式を設定している査定書もあります)
これも土地と同じになります。現地に行ったことがないのに、建築したハウスメーカーや建物のグレードで調整する「品等格差率」や、住宅診断の実施・リフォーム・リノベーション工事の実施状況で調整する「メンテナンス補正率」を入力するなんて、どう考えてもおかしいと思います。
入手できる資料にはリフォーム・リノベーション履歴が書かれていなくても、実際は1,000万円を超える大掛かりなリノベーション工事をしたかもしれませんよね。
また、「品等格差率」は建物に使用される部材を目視してグレードを判断しますが、建築のプロではない宅建士が判断できるものなのでしょうか…
建物が「積水ハウス」・「住友林業」・「三井ホーム」などの大手ハウスメーカーであれば最高評価で良いと思いますが、地元工務店の職人のおじちゃんが建てた素晴らしい建物はどのように評価するのでしょうか?
「メンテナンス補正率」の評価も難しいところです。
外壁や屋根のメンテナンスを10年に1回しっかり行っていれば高評価できますけど、通常通りの15年に1回だったらどうなのでしょうか?これも同じプラス評価できそうですけど、10年に1回と比較したときに同じ補正率で良いのかわかりません。
また、フルリノベーションして価値が復活したとしても、誰かが使った後であれば中古感覚になります。その場合のマイナス補正はどれくらいで設定すればよいのでしょうか?
そんなのわかりませんよね。
実際、大手の査定書を見比べてみると大体「1.00」になっていますから、なんだか難しい査定システムを作ってみたものの、実際は有効活用できていないという実態が見えてきます。
なお、「標準単価」は(公財)不動産流通推進センターが毎年発表する数字や国土交通省の「建物の標準的な建築価額表」などを基にしますが、この金額で実際に建替えるのは厳しいと言えます。
建物は本体だけでなく、外構工事費などもかかるわけですから、そのあたりも加味しなければいけません。
例えば平成30年の木造住宅は168,500円/㎡ですから、80㎡・3LDKを1,348万円で計算することになります。実際はこの金額で再建築するのは厳しいですし、3階建ならさらに建築費が上がります。この計算式で計算すると建物の評価が安くなりすぎてしまうため気を付けています。
補足1…
有名建築家に依頼した住宅などは査定システムの対象外となっています。まぁ、当たり前のことですけど。
補足2…
リノベーション工事や防音室工事などを行っていた場合、ゆめ部長は15年で価値が10%程度になるという前提で計算するようにしています。
不動産査定書に難しいデータを使う理由は法律が根拠を求めているから!
宅建業者が守らなければいけない法律「宅地建物取引業法」では、「媒介契約において査定価格についての意見を述べる際は客観的・合理的な根拠を明らかにすること」を義務付けています。
なぜ義務付けられているのかと言うと…
思ったよりも早くに成約できた場合「あれ?もっと高く売れたんじゃないの?」「なんでもっと高い金額で販売するようにアドバイスしてくれなかったんだよ!」とクレームになることは想像しやすいと思います。
査定金額の根拠をしっかり説明して納得できていれば、「こんなに早く契約になってよかったぁ~」と思えますから、このようなクレームにつながらず済みますよね。
この客観的・合理的な根拠を明らかにするための1つの方法が、「不動産売却査定システム」を利用した査定書の提示になります。
しかし、この不動産査定システムは宅建士が現場で使いやすいとは言えません。この点は大きな問題だと思います!
個人情報取扱が厳しく成約事例の詳細情報がわからないために、宅建士の主観に頼る現在のシステムは、今まで通りの「不動産屋さんの勘に頼る査定」と何も変わりません。結局、誰にとってもメリットを生み出すことができていないと評価せざるを得ないわけです。
仲介業務に15年以上携わっていても、査定システムを利用して妥当な金額を算出する自信がゆめ部長にはありません。必要以上に細かいデータを入力するのではなく、現実的に集められる資料・情報から、より正確な数字に近づけられる査定システムができあがることをこれからの不動産テック(リアルエステートテック…不動産×テクノロジー)に期待しています。
参考記事…
ゆめ部長が不動産の査定金額を決める4つのSTEP
ゆめ部長が不動産の査定金額を決める流れを簡単にご紹介します。
STEP1.
現在売りに出されている類似物件と成約事例を集めます。これらの販売図面から読み取れるプラスポイントとマイナスポイント・販売期間などをまとめ、1坪あたりの土地価格を基準に査定不動産と比較して販売価格を検討します。
査定不動産がマンションであれば、分譲時の価格表も入手して、成約事例と分譲時の価格から「増減額」「増減率」を計算して参考にしていますし、原価法を用いた建物の残存価値の計算、リフォーム・インスペクション・修繕履歴も価格に反映させています。しかし、大手のような細かい計算式は使っていません。
STEP.2
売主さまの売却希望額をヒアリングしながら販売スタートの金額を検討します。最初はちょっと高めで設定することが多いです。
STEP.3
STEP.2で決めた金額と近い不動産を周辺エリアで検索します。自分がマイホーム探しをしていたとしたら…と仮定して、売却する不動産を「購入したいと思うか?」「選ぶ可能性が高いか?」を売主さまと一緒に考えます。
step.4
「自分だったら購入するよ!」と思えたら、自信を持って販売活動をスタート。逆に、「自分だったら購入しないよなぁ~」と思ったら、再度、販売スタートの金額を検討し直します。
簡単に解説すると、こんな4つのSTEPになります。
こうやって、「複数の成約事例や類似物件と比較して導き出される販売価格がいくらなのか?」「自分ならこの金額で購入するのか?」をお客さまと一緒に考える方が、よっぽどわかりやすくて納得してもらえると実感しています。
大手が提示する査定金額とゆめ部長の査定金額はいつもほぼ同じになりますから、やはり、難しいデータや計算式は不要だと思いますよ。
どうしても細かい内容の不動産査定書が欲しいなら…
複数人が共有している不動産を売却する場合、どこの不動産屋さん・どの担当者に任せるか…?は、共有者のみなさんが承諾しないと決められないと思います。
「細かい内容が記載された査定書を見せることで安心してもらいたい」そんなご要望があれば、ゆめ部長でも作成することは可能です。
その際は、所有する資料の確認、リフォームや修繕履歴のヒアリング、法務局・役所・現地での調査を行う必要がありますのでご協力ください。
査定に必要な資料を収集できましたら、公益財団法人 不動産流通推進センター の「既存住宅価格査定マニュアル」を使った査定書を提示します。
まぁ、分厚い査定書を求める売主さまは「大手のブランド」が好きなので、ゆめ部長に声がかかることはないと思いますけどね。
最後に…
訪問査定を受けたことがある方へ…。
皆さまの担当者さんは査定金額を算出した根拠をしっかり説明してくれましたか?「査定根拠の説明が実はよくわからなかったんだよね…。」という感想が大半だと思いますが、査定金額を納得できているかどうかは大事なポイントです。
特に成約事例と競合不動産の比較は重要ですから、これらの資料を提示してくれなかったという場合は、即、別の担当者・不動産会社に依頼することを強くオススメして、本日の記事を終わりにしたいと思います。
文字数の多い記事を最後まで読んでくださりありがとうございました。ここまで辿りつくほど勉強熱心なら、次の参考記事で査定方法も勉強してみてくださいね!
参考記事…
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